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あくる日の朝。俺の陰鬱な気分とは裏腹に、目覚めはスッキリ爽やかだ。
トーストに、バターといちごジャムをたっぷり塗りたくって食べ始める。普段は一枚しか食べないが、今日は奮発して二枚にしてやった。この甘じょっぱいパン切れが最後の晩餐かと思うと泣けてくる。
食後にコーヒーを飲みながらネットニュースをチェックしていると、時計が8時半を指している事に気が付いた。
10時には研究所に着いていなければいけない。遅れると何をされるか分かったもんじゃないので、仕方なく出かける準備を始める。
手早くシャワーを浴びて服を選ぶ。どうせ脱ぐ羽目になるんだからボタン付きのシャツなんかは面倒だ。薄手のパーカーにライダースジャケット、下は綿パンにした。
愛車のバイクにまたがって走り出す。高速に入ってしばらく走り続けると、やがて県境に差し掛かった。目的地は近い。
高速を降りて大きな橋を渡り、山間部の方へ向かって進んで行く。その先にあるのは地元民すら立ち入らない深い森の入口だ。なぜ人々が立ち入らないかと言うと、ここでは方位磁石とかGPSと言ったものがまるで役に立たないのだ。しかしそれは自然の影響じゃなくて、俺がこれから行く研究所が、ここら一帯の磁場や電波をかく乱しているからというのが理由だが。ちなみに俺は、ジジイから位置確認用の特殊な端末を渡されているので、この森の中で迷う事はなかったりする。
そんなこんなで、俺は時間通りに研究所に着く事が出来た。入り口には、今までの検査の時と同じようにミラが立って待っていた。今日はブラウスの上に白衣を羽織っている。
「調子はどう?」
「最悪。」
「絶好調のようで何よりね。」
何とも憎たらしい言葉を放って、ミラは研究所の入口に設置されているセンサーの前に立った。ここのスタッフは、施設に入る際に生体認証を受ける必要がある。勿論それは俺も例外ではなく、ミラに続いて俺もセンサーの前に立った。
チェックが済んで無事に入口が開くと、ミラは先に立って歩き始めた。
研究所の中は碁盤の目のような作りをしていて、常勤の研究所員でさえ迷う事があるんだそうだ。だが、目の前を歩くミラはカツカツとヒールを鳴らしながらまったく迷いなく歩いていく。後ろから見ていて、ふと「あぁ、ランウェイを歩くモデルってのはこんな感じなんだろうな。」と思って、それが我ながら妙にしっくり来てしまった。
何分か歩いたところでミラは足を止めた。俺達の目の前には、他の部屋となんら代わり映えのしない扉がひとつ。「研究室A」とか書いた札でもあればいいんだが、そんなものはどこにも見当たらない。ここが今日の俺の拷問部屋という事で合ってるんだろうか? もし間違ってたら笑ってやりたいもんだ。
扉についているセンサーにミラが手をかざすと、電子音が鳴って、シューという音と共に扉が上にスライドした。
中では、ひとりのジジイがホールケーキを貪りながら、目の前のモニターを凝視していた……。
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