第45話 五つの光

「どうして……?」


 ダニエルが目を白黒させて尋ねると、エデルはニッと笑った。


「あんたが面白そうなことをやってるって聞いてな。俺もまぜてくれよ」


 突然現れた大柄な男に、国防軍の兵士たちは銃を向ける。


「う、撃て! まとめて殺せ!!」


 部隊長の号令で魔導銃が一斉に火を噴く。何十発もの魔導弾が放たれると、エデルは体に力を入れた。

 噴き上がる‶オーラ″が全身を包む。

 浴びせられる弾丸を、いとも簡単に弾き返した。


「はっ! こんなもので俺を倒そうってのか? 笑わせんな!」


 エデルが踏み込み、敵との距離を一気に詰める。


「オラッ!」


 エデルの剛拳が唸りを上げた。目にも止まらぬ速さで兵士を殴り倒し、暴れ回って相手を蹴散らしていく。

 後ろから駆けつけた国防軍の兵士は、なにが起きているのか分からず、混乱状態のまま暴力の嵐に巻き込まれていった。


「ダークさん!」

ご主人様マスター~!」


 異変に気づいたリズやカンヘル竜、そして一部の兵士たちが慌ててやって来る。


「なにがあったんですか?」


 リズは暴れているエデルに目をやりながら、戸惑ったように聞いてきた。


「国防軍が回り込んで来たんだ。たぶん城から抜けられる通路があるんだろう」

「そんな……完全に油断してました」


 リズが手で合図すると、後ろにいた兵士がコクリと頷き、二十人ほどの集団で森の中へと入っていく。

 魔導銃を構え、闇に隠れる敵を銃撃する。


「なんだ、援軍が来たのか?」


 敵の兵士を投げ飛ばしていたエデルが、つまらなそうに首を振る。興をそがれたのか戦うのをやめ、ダニエルの元まで歩いてきた。


「ダークさん、あの人知り合いですか?」


 リズが小声で聞いてくる。ダニエルは「うん、ああ、まあ」と曖昧に答えた。

 知り合いと言えば知り合いだが、決して仲がいい訳ではない。


「ダーク! あんまり危なっかしいことすんじゃねーぞ。あんたを倒すのは俺なんだからな」


 エデルがダニエルの前に立つと、回り込んで来たカンヘル竜がダニエルの前に躍り出る。


「マスターに近づかないで下さい! 特にあなたのように野蛮な人は厳禁ですぅ」

「ああ、野蛮だあ? お前がいなかったからダークがピンチになってたんだろう! それを俺が助けたんだぜ」

「あなたなんかに守られなくても、マスターは私が守ってましたぁ! 余計なことしないで下さい~!」

「なんだと!」

「なんだとはなんですか!」


 エデルとカンヘル竜が顔を近づけ睨み合う。どちらも恐ろしく強いため、ここで争うのはやめて欲しい。


「ま、まあ、助けてもらったのは間違いない。感謝するよエデル」


 ダニエルの言葉にエデルは「ほらな!」と言ってドヤ顔をする。それを見てカンヘル竜は頬を膨らませ、真赤になって怒っていた。


「にしても、あの程度の敵、召喚獣で蹴散らしゃあいいじゃねえか! なんでやらねえんだ?」

「戦い続けたせいで、ほとんどの召喚獣を使い切っていてね」

「そういうことか……まあ、ここまで来たついでだ。手助けしてやるぜ」

「え?」


 意外な申し出にダニエルは驚く。エデルとは一度戦っただけで、親交を深めた訳でもなんでもない。


「どうして……」

「おいおい、忘れたのか? 俺は混血種ハーフだぜ。今の政府に不満を持ってる一人だ。どちらかに味方するなら、当然革命軍だろう」


 エデルはそう言うと、笑みを浮かべながら王城へと歩いて行く。


「あの人、混血種ハーフなんですか?」


 リズがエデルの背中を見送りながら呟く。ダニエルは「ああ」と応えつつ、戦場に嬉々として突っ込んでいくエデルの姿に眉をよせる。

 ――いくら混血種ハーフだからって、こんな戦いに首を突っ込むなんて……やっぱりただの戦闘狂なんじゃ……。

 そんな疑念を持つが味方してくれるならありがたい。

 王城攻略はエデルに任せておけば大丈夫だろう。そう考えたダニエルはカンヘル竜の方を向く。


「カンヘル竜! 改めて私の警護を頼む。まだ敵の兵士が潜んでるかもしれないからな」

「わっかりました~、任せて下さい。ご主人様マスター!」


 翼の生えた少女は大喜びでパタパタとダニエルの周りを飛び回る。


「ダークさん、これでこの戦いも……」


 リズが魔導銃を握りしめ、感慨深そうに城を見る。彼女に取っては長年追い求めてた政権の打倒。

 それが今、実現しようとしている。

 嬉しさは計り知れないだろう。そんなことを考えていた時、ふと違和感に気づく。


「そういえばバンデルはどうしたんだ? いつも一緒にいるのに姿が見えないけど」

「え? ええ、実は私も探してるんですけど、はぐれたみたいです。たぶん、どこかにいるとは思うんですが……」


 リズの言葉が切れる。風を切り裂く音と共に、五つの光が空に浮かび上がる。

 最初はなにが起きたのか分からなかったが、リズやダニエルが空を見上げて目を凝らすと、次第にがなにか分かってきた。

 ――飛行艇だ。

 軍用の大型飛空艇が空に浮かんでいた。それも五隻。


「王国はあんなものまで用意してたのか?」

「あれは軍用……だとしたら」


 リズの顔が恐怖に歪む。そして、その恐怖はすぐに現実のものとなった。

 上空の飛空艇から大量の爆薬が投下されたからだ。王城も、敵味方の兵士も、なにもかもが爆発に巻き込まれ消し飛んでいった。

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