第11話 しゃべった!

「ダークさん!」


 グリフォンは羽ばたきながら、ゆっくりと高度を下げる。地面に着地したのを確認して、ダニエルはその背から降りた。

 リズの着ている服はボロボロで、至る所に血が付いている。


「怪我をしてるのか?」

「私は大丈夫です! それより仲間が――」


 ダニエルが辺りを見回すと、何人も血を流して倒れている。リズと似た格好をしているため、全員革命軍なのは分かった。


「仲間は全部で何人だ?」

「約五十人います!」


 ――五十人……さすがに召喚獣で運ぶのは大変そうだな。それなら国防軍を追い返した方が早いか。

 ダニエルが思考を巡らせていると、怒気に満ちた声が飛んでくる。


「なんなんだ、テメーは!? 革命軍の仲間か!」

「おい、構わねえ。ぶっ殺しちまおうぜ!!」


 目を向ければ、そこには五人ばかりの軍人が立っていた。ずいぶんガラの悪い連中だ、とダニエルは眉をひそめる。

 国防軍である以上、働く場所は違っても同じ公務員だ。

 全員魔族のようだが、もう少し紳士的に振舞えないものか。ダニエルはやれやれと首を横に振る。

 五人の男たちは小銃をダニエルに向け、トリガーに指をかける。


「やめておいた方がいい。。私に悪意を向ければ、君たちが痛い目にあってしまうよ」

「あ!? なに言ってやがんだこいつは!」


 軍人が苛立った様子でダニエルを睨む。その時、背後でガサリと音が鳴った。

 五人は一斉に振り返る。そこには剣を持った二体の人影があり、男たちは慌てて銃を向ける。


「Bランクモンスターの『★★★★★ 髑髏の騎士』と『★★★★★ 鬼武者』だ。君たちでは勝てないと思うよ」


 火を噴く銃口。飛び交う魔光弾を物ともせず、二体のモンスターは男たちに斬りかかる。

 全身が甲冑に覆われた髑髏の騎士は、持っている白銀の盾で銃弾を防ぎつつ、長いランスで相手を薙ぎ払った。

 東洋の鎧を着こんだ鬼武者は、妖しく光る刀で男たちを斬り裂いてゆく。

 あっと言う間に五人の軍人を倒してしまった。あまりの強さにリズは唖然とするが、すぐに頭を振り、ダークに現状を説明する。


「なるほど……敵は三百ほどか、なかなか骨が折れそうだな」

「な、なあ、アンタ! 助けてもらってなんだが、これは革命軍と国防軍の全面戦争だぞ! 本当に首を突っ込んで大丈夫なのか!?」


 苦言を言ってきたのは怪我をした若い青年だ。それはもっともな意見だと思っていると、リズが間に入ってくる。


「ごめんなさい、ダークさん。この人は仲間のバンデル。突然ダークさんが現れたから、ちょっと戸惑ってるだけだと思います」


 リズは少しバツが悪そうに話す。確かに、ちゃんとした挨拶もないまま助太刀してしまったからな。

 バンデルから見れば胡散臭い輩に見えるだろう。


「とにかく、話は後だ。私は国防軍を追い払いつつ、君たちの仲間を救助していく。君たちは山頂に向かって避難してくれ」

「で、でもダークさん一人に全部任せる訳には……」


 リズは申し訳なさそうに呟くが、


「いや、一人の方がいい。君たちはむしろ足手まといだ」


 ちょっとキツい言い方だが、被害を最小限にするならこの方法が最善だろう。

 二人は困惑していたが最後は納得し、ダニエルに対して「よろしくお願いします」と頭を下げてきた。

 他の革命軍のメンバーも、ダニエルに礼を言い山頂に向かって歩きだす。


「ああ、そうだ!」


 ダニエルがなにかを思い出すように声を上げたので、リズたちは足を止める。


「君たちに護衛をつけておこう。この山は危なそうだからね」

「護衛……ですか?」


 リズは眉を寄せるが、ダニエルは構わず腰から小さな本を取り出し、中から一枚のカードを抜く。

 それはキラキラと輝く綺麗なカードだ。


「来い! カンヘル竜!!」


 ダニエルがカードを掲げると光の泡となって消えていく。代わりに現れたのは、目の前で渦巻く旋毛風つむじかぜ

 その中から小さな女の子が飛び出てくる。


「わーーーい! ご主人様マスター、お呼びですかーー!?」


 現れたのは竜の翼と尻尾を持ち、ゆるく巻かれたピンクの髪が目につく少女。空中にフワフワと浮かびながらダニエルを見つめてくる。


「「しゃ、しゃべった!?」」


 ダニエルとリズの声が揃う。リズが「え?」と不思議そうな顔でダニエルを見てきたので、コホンと咳払いしてなんとか誤魔化した。

 ――言葉を話すモンスターなんて初めてだ。Aランク以上のカードには、こんなのもいるのか……。


「カンヘル竜! この人たちの護衛を頼む。安全に山頂まで連れていってくれ」

「わっかりましたあ、任せて下さい!」


 ダニエルの言葉にカンヘル竜は敬礼してふんすと鼻を鳴らす。笑顔でリズたちの前を飛び、「さあ、ついて来て下さいね!」とやる気満々だった。

 山頂へ登る人々を見送ったダニエルは、麓へと目を向ける。

 かなりの数の兵士が、もう目と鼻の先まで来ている。この数を追い返すとなれば、少々手荒なマネも必要だろう。

 そう思った時、足元に転がる小銃に気づいた。


「これは……魔光銃の二式三型モデル」


 ダニエルが改良し、試作品を作った物だ。自分が作ったものがこんな所で使われているのか、とリズたちに申し訳ない気持ちになる。

 人を傷つけるものだと分かっていても、現実味がなかった。

 色々な感情が込み上げてくるが、今はそれどころじゃないと頭を振る。


「数での戦いなら、こちらにがある」


 ダニエルはホルダーから、何枚もの召喚カードを手に取った。

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