第12話 総力戦

「おい、誰かいるぞ!」

「革命軍だ!!」


 下から登ってくる兵士たち。松明をかかげて、叫び声を上げる。こっちに向かって来るのは数十人……別方向からも登って来ているようだ。

 ダニエルは手に取った数枚のカードを見る。

 カードに同じ種類のものはない。なぜなら【魔導錬金装置】を使ってワンランク上のカードを作るため、重複する物は全て錬成に回すからだ。

 ただし、例外がある。だ。

 カードを錬成する際、稀に色の異なる物ができることがある。

 この色違いのカードはAランクカードより希少な場合もあるため、ダニエルは大切にコレクションしていた。

 

「行け! グレート・ボア!!」


 ダニエルは五枚のカードを前方に放り投げた。光り輝き、大猪へと変わる。


『★★★★★ グレート・ボア』(通常)

『★★★★★ グレート・ボア』(ちょっと赤い)

『★★★★★ グレート・ボア』(ちょっと黒い)

『★★★★★ グレート・ボア』(やや黄色味がかっている)

『★★★★★ グレート・ボア』(不気味に青い)


 五匹の大猪は、我先にと突進して行く。前方にいた国防軍の兵士は、突然現れた猪に驚き、大混乱に陥った。

 魔導銃を乱射するが、グレート・ボアは構わず突っ込んでくる。


「うわああああああ! なんだ、こいつら!!」


 兵士が次々と吹っ飛ばされていく。道なりに集団で登って来ていたため、国防軍としては大打撃だ。

 それでも数十人という兵士が怒号と共に上がってくる。ダニエルは‶髑髏の騎士″と‶鬼武者″に対応させるが、さらに左右の斜面から兵士が上って来た。

 銃を構えながら、ダニエルの元まで近づいてくる。


「君たちには、このカードだ」


 二枚のカードが宙を舞う。


『★★★★★ 狂暴な鬼熊』(通常)

『★★★★★ 狂暴な鬼熊』(毛並みが金色)


 荒れ狂う二匹の熊は二手に別れ、山を登ってくる兵士たちに襲いかかった。その大柄な体躯と、凶悪な腕力で国防軍を蹴散らしていく。


「うん、やっぱり色違いのカードを集めるのは‶マニア″の基本だね」


 ダニエルは納得したように頷くが、相手の数が多すぎて九体のモンスターだけでは倒しきれない。

 そのうえ【魔導兵器】を兵士全員が持っているため、囲まれてしまえばBランクのモンスターでも倒されてしまう。

 別のルートからも兵士は山を登り、リズたちを追っているようだ。


「仕方ない」


 ダニエルは手札を惜しみなく使うことにした。


「召喚、『★★★★★ スパルナ群れ』!」


 現れたのはBランクのモンスター。一枚で五羽の鳥が召喚できる。

 スパルナは金色の翼を持つ美しい鳥だが、単体では大きくも強くもない。だがくちばしは鋭く、つつかれれば大怪我をする。

 案の定、攻撃を受けた兵士は悲鳴を上げながら逃げ出していた。


「来い!『★★★★★ ゴブリン突撃隊』!!」


 今度は五体のゴブリンが出現する。小柄な緑色の鬼たち。それぞれが斧や剣、弓矢や棍棒など、違う得物を持っている。

 ゴブリンたちは徒党を組み、一個小隊の兵士たちに襲いかかった。


「うわあっ! ゴブリンだ、そっちに行ったぞ!!」

「矢だ、矢が飛んでくる!」


 連携して攻撃するゴブリンに、兵士たちは大苦戦する。


「なんとか押し切れるか……」


 ダニエルは戦況を楽観的に見ていたが、後ろからドンッと大きな爆発音が聞こえてきた。

 何事かと思い視線を向けると、一部の兵士が魔導砲を使って応戦している。

 ――鬼熊が倒されたか。

 より強い魔導兵器を使ってモンスターを撃破していた。やはり正規の国防軍は簡単に追い返せないな、とダニエルは臍を噛む。

 かたわらで待たせていたグリフォンに跨り、上空へと飛び立つ。


「誰か逃げるぞ! 撃て、撃て!!」


 地上にいる兵士が魔導砲や魔光銃を構え、連射する。飛び交う弾丸を避けながら、ダニエルは本型ホルダーを手に取り、一枚のカードを抜き出した。

 空中に投げると、ヒラヒラと落ちていく。

 それは光り輝く六つ星のカード。


「全てを薙ぎ払え! 【★★★★★★ 金羊毛皮の守護竜】!!」


 目も眩むほどのまたたき。周囲に金色の炎が広がる。

 ドスンッと地上に降り立ったドラゴンは、グルルルと唸り声を上げながら辺りにいる国防軍を睨みつけた。

 黄金の美しい毛並み、羊のような立派な角。

 巨大な翼を広げた雄大な姿は、目の当たりにした兵士たちの度肝を抜いた。


「なんだ、この竜は!? 突然、現れたぞ!」

「い、いいから撃て! 撃ちまくれ!!」


 国防軍が撃つ弾丸が乱れ飛ぶが、竜の外皮に当たっても跳ね返されるのみ。大したダメージを与えることはできない。

 守護竜は大きなあぎとを開く。吐き出されたのは黄金の炎。

 辺り一帯を飲み込み、兵士たちを焼き払う。


「ぎゃああああああああああああああ!!」


 火に巻かれた大勢の兵士たちは、山の斜面を転がっていった。不思議なことに山の草木が燃えている様子はない。


「敵だけを燃やすのか……これが‶金羊毛皮の守護竜″の能力」


 守護竜は羽ばたいて大きな体を持ち上げる。ジロリと周囲を睨むと、木々の合間にいる敵を見つけ飛んでいく。

 ――あとは守護竜に任せておけば大丈夫だろう。

 ダニエルはそう思い、山頂を指差す。グリフォンはダニエルの意思を理解し、翼をバサリとはためかせ山頂へ向かって飛行する。

 一路、避難したリズたちの元へ。

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