第4話 七つ星のカード

 ダニエルは『召喚カード』の構造を調べ始めた。

 上級魔法である‶召喚″の原理原則。それをオドスが解明し、その結果誕生したのが召喚カードなら、自分にも作れるのではないか?

 そんな安直な考えから始まった『召喚カード』の研究だったが、予想以上に解析の難易度は高く、何度も失敗し、困難に突き当たる。

 それでも強いカードが欲しいというダニエルの情熱が、寝る間を惜しんで研究に向かわせた。

 そして研究から三年後、この装置は完成する。

 ――チンッ。一枚のカードが開口部から出てきた。何枚ものカードを消費し、最後に出てきたのはBランクのカードだ。


「はあ……これで、とうとう揃ってしまった」


 ダニエルは黒いバインダーから、九枚のBランクカードを取り出す。新しく作り出したカードと合わせ、十枚の束にすると、それを装置の開口部へと入れる。

 箱形機械の横にあるレバーを引くと、機械がガタガタと揺れ始めた。

 同じランクのカードを十枚装置に入れれば、ワンランク上のカードに再構築され、強力な召喚モンスターが生まれる。

 それがダニエルの作った【魔道錬金装置】だ。

 一から新しい召喚カードは作れなかったが、既存の物を利用し、より強力なカードを生成する試みは成功した。

 ――チンッ。

 大きな音を立て、激しく点滅した後、完成したカードが開口部に現れる。

 ダニエルはゴクリと喉を鳴らし、を手に取った。キラキラと煌めき、強そうなモンスターが描かれた六つ星のカード。


『★★★★★★ 金羊毛皮の守護竜』


 黄金の毛並みをなびかせる大きな翼竜。ヤギのような特徴的な角をしており、精悍せいかんな顔立ちはダニエルの心を撃ち抜いた。


「か、かっこいい……初めて見るモンスターだ。実際召喚して使ってみたい……」


 ダニエルは頭を抱えて悶絶した。彼は今、とてつもない難題に直面している。

 手元には十一枚のAランクカードがある。同じランクの召喚カードが十枚あれば、一つ上の召喚モンスターを生み出せる。

 すなわち七つ星、Sランクの召喚カードだ。

 だが、ダニエルはその最強カードを作ることをためらっていた。

 なぜなら、この魔道錬金装置を使えば、新しいカードの代わりにAランクのカード十枚を失うからだ。

 ダニエルはどうしても【蒼炎のフェニックス】だけは手放したくなかった。そのためフェニックスを除くAランクカードが十枚そろうのを待っていたのだ。

 しかし、新たに出てきた‶守護竜″はあまりにもカッコいい。

 もう一つのお気に入りになってしまう。あと一枚、Aランクカードが出てくるまで待つべきか?

 そう考えてダニエルは頭を振る。


「そんなことをしていたら、いつまでたってもSランクのカードは作れない! ここは心を鬼にしないと……」


 フェニックスを除く十枚のカードを手に取る。錬金装置の前までくると、ダニエルはふぅ~息を吐き心を落ち着ける。

 開口部に束を置き、装置の右下にある動力炉の蓋を開けた。さすがにSランクの物を作るとなれば、かなりの魔力を使うだろう。

 ダニエルはストックしてある‶魔石″を動力炉にくべ、蓋を閉じる。


「Sランクを作るのは初めてだからな。はたして成功するかどうか……」


 言いようのない不安を覚えた。もし失敗して、Sランクのカードができないうえ、Aランクのカードも十枚失えば、とても立ち直ることはできないだろう。

 そんな最悪の事態を想像しつつ、それでも強力なカードが欲しいという欲求にはあらがえない。

 ゴクリと喉を鳴らして、レバーを引いた。

 今までで一番激しい揺れ、ガタガタゴトゴトと装置は動き、ランプは明滅して試験管の一つが割れた。

 配管の至る所から蒸気が上がり、異様な音が鳴り響く。


「だ、だ、だ、大丈夫かな!?」


 ダニエルは目を白黒させ、どうしようかとオロオロした。爆発するんじゃないかと心配して、部屋の隅へと避難する。

 長机を盾にして、事の成り行きを見守るしかない。

 ドンッと、下っ腹に響くような音が鳴り、部屋は白い煙に覆われた。ダニエルはゴホゴホと咳込みながら、部屋の扉を開けて煙を逃がす。


「あ~~~そんな……失敗したのか?」


 その場で呆然と立ち尽くす。装置が壊れたのもそうだが、それ以上に十枚のAランクカードを失ったことの方が大きい。

 ダニエルはしばらく放心状態になっていた。

 五分ほど経って煙が収まり、部屋の状態が見えてくる。ダニエルは中に入って装置の状況を確認しようとした。

 運が良ければ、Aランクカードが残っている可能性も――

 そんな淡い期待を抱いたが、束を入れた開口部にはなにも残っていなかった。やはり全て消費してしまったようだ。

 ハァ~と溜息をつき部屋を出ようとした時、目の端になにかが映る。

 カードの束を入れる開口部とは別の場所にある、錬金合成が終わったカードが出てくる開口部に、一枚のカードがあった。


「ま、まさか!?」


 ダニエルは恐る恐る、そのカードを手に取る。

 七色に光るプリズムの輝き、見たことのないモンスターの絵柄、そしてカードの上部にある七つ星のマーク。


「成功してたのか……」

 

 驚きと、喜びと、信じられないという気持ちが入り交じり、ダニエルは召喚カードを改めてマジマジと見つめた。


『★★★★★★★ 黙示録の赤い竜アポカリブス・レッド・ドラゴン


「これが……七つ星の召喚モンスター!!」

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