第24話 魔神の加護

 フェニックスは羽ばたき、小さな火球を生み出す。

 雨のように降り注いだ火球が当たると、爆発が起こり炎が舞い散る。だがその全てをエデルは軽やかに、的確にかわしていく。


「くそ! フェニックス、突撃だ!!」


 蒼炎のフェニックスは三度みたびエデルに勝負を挑む。今度はエデルも避ける様子はなく真向から迎撃するようだ。


「いいぜ、腕の一本ぐらいならくれてやるよ!」


 フェニックスの突撃。エデルの右ストレート。両者がぶつかり合った刹那、激しい光が辺りを包む。

 大爆発が起き、ダニエルは思わず目を伏せた。

 響き渡る轟音。焦げ臭さが漂い、煙が競技台を覆う。腕で爆風を遮っていたダニエルが、ゆっくりと瞼を開く。

 そこには腕をダラリと垂らしたエデルが立っている。

 右腕はプスプスと音を立て、黒く焦げていた。


「へっ…まずは一匹……」


 空から光が降ってくる。ダニエルがパシリと受け取ると、それは蒼炎のフェニックスのカードだ。

 ――やられた!? フェニックスが?

 コロシアムに参加して以来、初めての出来事だった。今まで数多の敵を倒してきたフェニックスが、逆に倒されてしまうなんて。

 衝撃を受けるダニエル。しかし、試合はまだ終わっていない。

 エデルが駆け出し、左拳にオーラを集めて殴りかかって来た。カンヘル竜が風魔法で守ってくれるが、打ち込まれた攻撃の威力があまりに大きいため顔を歪める。


「こ、のぉ~!」


 周囲の空気を操り、風の斬撃を放つ。軌道が予測できない不可視の攻撃を、エデルは次々とかわしていく。


「見えているのか!?」


 驚くダニエルの前で、カンヘル竜は苛立ちを募らせる。


「なんなんですかぁ、こいつ! こいつ! こいつ!!」


 無数の風の攻撃を潜り抜け、エデルがカンヘル竜に迫った。オーラを纏った左の拳で殴りつける。

 だが、寸での所で攻撃が止まった。


「無駄ですぅ~、私の守りは完璧ですから~」


 風の障壁で攻撃が通らない。エデルは顔をしかめ「ちっ」と舌打ちして後ろに飛び退いた。次の瞬間、カッと空が瞬く。

 金色の炎が降り注いだ。


「焼き払え! 金羊毛皮の守護竜!!」


 ダニエルが召喚した黄金の竜が降りてくる。

 それを見たエデルは「おいおい、マジかよ!」と顔をひきつらせていた。竜は金のブレスを吐き出す。

 競技台の大半が黄金の炎で覆われる。

 エデルは炎を避けるため空中に飛び、カンヘル竜は風の動きを変えて炎の軌道を逸らした。

 ドスンと降り立つ守護竜に、エデルは「へっ!」と吐き捨て向かっていく。

 灼熱のブレスが放たれる。紙一重でかわしたエデルは竜に近づき、体を捻って回し蹴りを叩き込む。

 頭部を蹴られた守護竜は「ヴォロロロロ」と唸り声を上げ、首をすくめる。

 さらなる追撃をしようとしたエデルだが、カンヘル竜の風の刃に気づき、後ろに飛び退き、これをかわした。

 あまりの反応速度にダニエルは驚愕する。

 ――強い、強い、とは聞いていたが、ここまでとは……。


「君は本当に混血種ハーフなのか?」


 ダニエルの問いに、エデルはフッと笑みを浮かべる。


「ああ、そうだ。俺は混血種ハーフだが、なんでも‶魔神の加護″って才能があるらしい。魔族でも滅多にないんだとよ。まあ、詳しくは知らねえが」


 ――魔神の加護? 聞いたことのないが……なんにしてもこの男の強さは本物だ。早目に決着をつけないと。

 

「カンヘル竜、守護竜! 同時に攻撃を仕掛けろ!!」

「あいあいさ~!」

「ヴォロロロロ!」


 二体のモンスターが一斉に襲いかかる。エデルはファイティングポーズを取り、「上等じゃねーか!」と笑みを深める。

 体から更なるオーラが噴き上がり、エデルの全身を包んだ。

 守護竜の炎と、カンヘル竜の風の斬撃が迫るが、エデルに避ける様子はない。

 炎と風が直撃するも、噴き上がるオーラによって弾かれてしまう。ギラリと目を光らせたエデルが恐ろしい速さで移動し、裏拳でカンヘル竜を殴り飛ばす。


「にゃああああ~!」


 風の鎧で守られていたが、それでも十メートル以上吹っ飛ばされた。守護竜はエデルに突っ込み、口をがばりと開けて噛みつく。


「んだ、この野郎!」


 オーラを纏っているとは言え、守護竜に直接噛まれればダメージは避けられない。

 エデルは苦悶の表情を浮かべるが、すぐに攻撃に転じた。竜の鼻先を肘で打ちつけ口を開けた瞬間、顎を蹴り上げた。

 頭が跳ねる。竜は苦し気な鳴声を上げ、光りとなって消えていった。

 戻って来たカードを見て、ダニエルはさらに驚愕する。


「守護竜まで……いくらなんでも強すぎないか?」


 カンヘル竜もふわふわと飛びながら、なんとか戻ってくる。モンスター一体だけだと不安に感じたダニエルは、さらに二枚のカードを宙に投げる。


「来い! 髑髏の騎士! 鬼武者!!」


 二体の異形の戦士が姿を現す。エデルの前に立ちはだかり、剣とランスをかかげて向かっていく。

 それを見たエデルは「フンッ」と鼻で笑った。


「ダーク……こんな奴らじゃ、俺は倒せねーぞ!!」


 回し蹴り一閃。髑髏の騎士と、鬼武者の頭が弾け飛んだ。トスッと地面に着地したエデルは、不敵な笑みを漏らしダニエルを睨みつけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る