第25話 決着
「おいおい、ダーク! こんな三下を出してくんじゃねーよ。もっといるんだろ? 金色の竜や、そのちっこいヤツ以上の召喚獣がよ!」
嬉々とした表情で言ってくるエデルに、ダニエルは背筋が寒くなる。
本当に戦いを楽しんでいる戦闘狂の考え方だ。自分のダメージなど一切気にせず向かってくる姿は脅威でしかない。
「つき合ってられないぞ……」
とは言え持ってきたAランクのカードはもう使い切ってしまった。一応、Sランクのカードは一枚持ってきているけど、召喚すれば大騒ぎになるだろう。
だとすれば……。
「カンヘル竜、あいつを倒せそうか?」
「う~ん、倒せる技はありますけど~。ちょっと時間がかかっちゃいますよ~」
「分かった。なんとかする」
カンヘル竜の答えを聞いて、覚悟は決まった。出し惜しみは無しだ。出せるカードは全て出す。本から五枚のカードを抜き取る。
「召喚! これで勝ちにいく!!」
投げたカードは光に変わり、五体のモンスターが現れる。
【★★★★★ 竜人ズメウ】
【★★★★★ グレート・ボア】
【★★★★★ キラービー】
【★★★★★ ファイアー・ドレイク】
【★★★★★ 聖ゲオルギウスのドラゴン】
競技台の上に、所せましと並んだのはBランクの召喚獣たち。先行したのは二体のドラゴンだ。
ファイアー・ドレイクと聖ゲオルギウスのドラゴンが、エデルに襲いかかる。
「いいね~、たぎってくるぜ!」
ドレイクの炎のブレス、ドラゴンの吐き出した毒の霧も、エデルは空中に飛び上がってかわし、さらに突っ込んできたキラービーの一撃も避ける。
もの凄い速さで繰り出した竜人ズメウの一突き。
細いレイピアの攻撃だったが、エデルは最小限の動作でよける。頬からスーと血が流れ出した。
「おお、いいじゃねーか」
エデルは全身から炎のようにオーラを燃え上がらせる。突進してくるグレート・ボアを、渾身の一撃で殴り吹っ飛ばした。
大猪は「ヴォ~ッ!」と悲壮な鳴声を上げて転がっていく。
場外まで出た所で光に変わり、カードとなってダニエルの手に戻った。エデルの猛攻が止まることはない。
回し蹴りを放てば、ドラゴンの顔に直撃。ドレイクが炎を吐き出せば、それを回避してアッパーカットを顎に叩き込む。
頭が跳ねたドレイクは後ずさるが、エデルは猛追する。
オーラを纏った拳で、頭や胸、肩を殴りつけた。ドレイクは堪らず悲鳴を上げ、光りの泡となってカードに戻る。
側面に回り込んで噛みつこうとした聖ゲオルギウスのドラゴンを、かかと落としで迎撃。衝撃で競技台が割れる。
こちらもカードに戻ってしまう。
「さあ、これであと何匹だ!? ひい、ふう、みい……三匹か」
ギラついた眼差しでエデルが周囲を見渡す。竜人ズメウが剣を構え、流れるような動作で突っ込んできた。エデルはニヤリと笑い、迎え撃つ。
高速で繰り出されるズメウの連続突き。レイピアが閃光のように放たれる。
だが、その全てを見切り、エデルはかわしていく。
「いい突きだが、まだまだだな」
手の甲でレイピアを弾き、ズメウの顔面にストレートを叩き込む。
竜人のスマートな顔が無残に歪んだ。拳を振り抜いた瞬間、ズメウは光となり召喚者の元へ戻ってゆく。
「あと二匹!」
エデルが踏み込んで飛び上がる。回し蹴りが、空を飛ぶキラービーを捉えた。
蹴り抜かれた瞬間、キラービーは光になって召喚者の元へ戻る。カードを手に取り、ダニエルは息を吐いた。
「やれやれ……まさか、ここまで追い詰められるとはな」
エデルはニヤリと頬を緩める。
「追い詰めるだけじゃねーぜ。今日であんたの無敗記録は終わるんだからな!」
自信満々のエデルだったが、ダークの隣にいる小さな竜の少女に目を留める。
両手を前にかざし、「う~ん、う~ん」と唸っていた。
「カンヘル竜、準備はいいか?」
「はい、マスター! これぐらい力が溜まれば充分です!」
二人の会話を聞いて、エデルは「なんの話だ?」と近づいていく。
だが、ぞわりと背中に汗が滲んだ。なにか言いようのない違和感が全身を包む。
「じゃあ~撃ちますね~」
少女が「ふんっ!」と言って力を込めると、エデルの体が後ろに下がる。なにが起きているのか分からないが、前進することができない。
一歩も前に行けない。これは――
「―
少女が冷酷に言い放つと、競技台のうえに本物の暴風が吹き荒れる。
エデルは立っているのもやっとで、思わず膝が折れそうになる。それでも必死に耐え、なんとか前進しようとするが、無情にも体は後ろに下がっていく。
「ちょっと待て! まさか――」
エデルは顔を歪める。競技台の端まで押し込まれ、場外はすぐそこ。なんとか耐えようと試みるも、とても風の暴力を押し戻すことができない。
気づけば竜の少女は勝ち誇った顔でこちらを見ていた。
「くっそ……くそおおおおおおおおおおおおおお!!」
エデルは吹き飛ばされ、場外に転げ落ちた。この瞬間、勝負が決まる。審判が高々と手を上げた。
「勝者! ダーーーーーーーーーク!!」
コロシアムは爆発するような歓声に包まれた。
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