第26話 血塗られた剣
「なんとか勝てたか……」
ダニエルがホッと胸を撫で下ろしていると、競技台の下に落ちたエデルが台に上りこちらに歩いてくる。
カンヘル竜が警戒し、エデルの前に立ち塞がった。
「なんですか~、まだやるんですか~!?」
キッと睨む少女を無視して、エデルはダニエルの前までくる。近くで見ると厳ついガタイなので迫力があった。
鋭い眼光で見据えられ、ダニエルはゴクリと息を飲む。
「さすがだ。ダーク、あんたはやっぱり強えよ! 俺もすぐに上級闘士になるから、また戦おうぜ!」
エデルが右手を差し出す。やはり正々堂々とした青年のようだ。
ダニエルは好感を持ちつつ、がっしりと握手をして「楽しみにしているよ」と返した。
試合が終わったのでカンヘル竜をカードに戻し、鳴りやまない喝采を浴びながら、自分の控室へと戻る。
いつもと違い、控室にコロシアムの関係者が集まっていた。
全員が魔族のお偉いさんだ。
「ダークさん。あなたはコロシアムの基準を満たしたため、次の試合からは上級闘士として出場してもらう。ルールの変更点や報酬に関してはここに書かれている。目を通しておいてくれ」
そう言って大き目の茶封筒を渡してくる。ダニエルが封筒を受け取ると、お偉いさんは「おめでとう」と声をかけ、出ていった。
誰もいなくなった控室で椅子に座り、ふぅーと息をつく。
ダニエルは感慨深げに封筒を見た。上級闘士になれば報酬はかなりの額になる。
ずっと目標にしていた闘士になることができた。これで革命軍に協力しなくても、お金はなんとかなりそうだ。
そう思ってダニエルは安心する。
荷物をまとめて部屋を見る。ここを使うことはもう無い。次に来る時は上級闘士用の専用控室が使えるからだ。
コロシアムから出ると、すでに日は傾き始めていた。
◇◇◇
西の公爵領。革命軍の攻撃は熾烈を極めていた。
魔導銃や魔導砲による銃撃戦。さらに剣や魔法による激突も続き、双方多大な犠牲を払いながら、一進一退の攻防を繰り広げていた。
だが、明らかに革命軍の方が押している。
「リズ! このまま行けそうだぞ」
後方支援を担当していたバンデルが、嬉しそうに言う。リズとバンデルは公爵邸から少しはなれた建物の屋上に来ていた。
ここからは街が一望でき、補給が必要な部隊を確認できる。
公爵邸からは火の手が上がり、黒い煙もモクモクと空に昇っていく。全て作戦通りに進み、順調なようだ。
「うん、問題ないみたいだね」
勝利を確信したリズたちは、前線にいる将軍ナラムたちに補給物資を届けるため、公爵邸へと向かう。
異変はその時起こった。
「ぎゃあああああああああ!」
公爵邸の中から悲鳴が聞こえてくる。すでに内部は制圧しているはずだ。
リズとバンデルが率いる補給部隊は、公爵邸の入口付近で足を止めた。周囲を警戒しつつ、中の様子を窺う。
「……なにが起きてるの?」
人の気配がない。ナラム将軍の大隊がいるはずなのに。
リズは部隊と共に公爵邸の中に入り、一階の広間を抜けて二階へ上がる。そこで信じられない光景を見た。
革命軍の兵士たちが大勢倒れている。
リズがしゃがんで兵士の生死を確認した。――死んでる。
魔導銃の傷ではない、全員斬られている。
「リズ、どうする?」
後ろからバンデルが話しかけてきた。リズが振り向けば、バンデルだけではなく、他の兵士たちも不安気な顔をしている。
こちらは補給部隊。状況が分からないのに、これ以上進むのはかなり危険だ。
リズは撤退も考えたが、ナラム将軍がどうなったか確認しなければ……そう思い、前を向く。
「もう少しだけ……将軍が負傷してるなら、救助しないと」
「分かった」
煙が流れる廊下を進み、扉を開けて二階の広間に出た。そこで見たものにリズは息を飲む。
ナラム将軍が血まみれで倒れていた。
傍らには剣を持った男が一人立っている。銀の鎧を着こんだ兵士。長く赤い髪が、やたらと目を引く。
リズはすぐに周囲を確認する。他に兵士はいない。
「こいつが……将軍たちを倒したの!?」
男はゆっくりとこちらを向いた。持っている剣は血に濡れている。
その威圧感に、リズは思わず「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。全員が魔導銃を構え、引き金を絞る。
魔力の弾丸が雨のように発射され、部屋の壁や家具を破壊してゆく。
木片と煙が舞う場所に、男の姿はない。どうして? と目を見開くリズたちの側面に、男は立っていた。
「革命軍の部隊か……悪いが一人たりとも生かしてはおけん」
男が振るった太刀によって、二人の兵士が斬り裂かれる。
返す剣で更に一人が絶命、あまりの速さにリズたちは反応することができない。革命軍で最強と言われるナラム将軍を倒した相手。
自分たちが敵うはずがない。
男が振るう剣の切っ先が目前に迫る。リズは絶望して目を閉じた。
「うおおおおおおお!!」
男の剣が弾かれる。
「大丈夫か!?」
リズたちの前に躍り出たのは、革命軍の戦士‶神速槍使いネザル″だ。
後ろからは魔術師イルミヤーの魔導部隊も駆けつけた。革命軍で最強の三戦士が
「ナ、ナラム将軍が……」
リズの言葉にネザルは目を走らせる。倒れているナラムを見つけると、あからさまに顔を歪めた。
「国防軍の上位兵士か!」
剣をダラリと垂らした男を、ネザルは厳しい目で睨みつけた。
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