第8話 勝利報酬でお買い物

「こんな所で働いてるってことは、お金に困ってるんじゃないですか? 革命軍は大きな組織ですから、それなりの額はお支払いできると思いますよ」

「それなりの額とは……?」


 足を止め、聞き返してしまう。お金に困っている訳ではないが、召喚カードを買うお金はいくらあっても足りない状況だ。

 そのうえ【魔導錬金装置】を使うには、かなりの魔石がいる。

 こちらもお金が結構かかるので、バカにはできない。ダニエルはコホンッと咳払いし、少女と向き直る。


「良かった。具体的にはですね」


 少女は持っていたバッグから小さなメモとペンを取り出し、簡単な概算をメモに書き出した。


「こういう場合はこれぐらいで……」

「ほうほう」

「こういう時は、特別報酬が……」

「え!? そんなに!」


 驚くことに一つの依頼をこなすだけで、年収以上の額がもらえるらしい。

 それだけあれば、かなりの数の召喚カードが買える。コロシアムも上級闘士になれば、多くのお金が稼げるが、中級闘士である今はそれほどでもない。

 ダニエルは頭を抱えて悩んだ。

 厄介事に関わりたくない、必要以上のリスクは取りたくない。

 革命軍の仕事を手伝うなど、闘士として稼ぐより遥かにリスキーだ。そう頭では分かっている。

 分かっているが、召喚カードが欲しいという欲がどうにも抑えられない。

 気づけばダニエルは、少女にに向かって「お願いします」と頭を下げていた。


「ああ、ダークさん、良かった! 私はリズ、革命軍のリズ・ルッソです。これからもよろしくお願いします!」


 リズが握手を求めてきたので、それに応じる。


「よろしくお願いします。リズさん」


 こうして、あれよあれよと言う間に変な副業がもう一つ増えてしまった。


 ◇◇◇


「ふぅ~今日は疲れたな」


 家に帰ってきたダニエルは衣装を入れた背嚢はいのうを机の上に置き、ソファーに腰を沈めて息をつく。

 夜もすっかり更けてきた。

 取りあえず獲得した報酬で、またカードをたくさん買うことができる。

 だが同じ店で大量のカードを買えば、政府に不審に思われ、治安当局に目をつけられる可能性もあった。

 弱いものしか召喚できないとはいえ、人に危害を加えるモンスターを召喚できてしまうカードだ。当然、国は問題が起きないか常に目を光らせている。

 そのためダニエルは複数の仕入れルートを持っていた。ほぼ、業者レベルである。


「強いカードを作ろうと思ったら、動力炉に使う‶魔石″も必要だしな」


 魔石の買い出し、魔導錬金装置の修理。明日はやらなきゃいけない事が目白押しだ。そう思いながら、ダニエルは眠ることにした。

 どんなに大変な作業であっても、苦に感じることはない。

 たくさんの召喚カードを手に入れ、より強いカードに変えていく工程は、ダニエルにとって何事にも代えがたい喜びだったからだ。

 ニヤニヤと微笑みながら、ゆっくりと微睡に落ちていく。


 翌日――

 午前中はSランクカードを作ったことで壊れた魔導錬金装置の修理を行う。

 今度は壊れないよう、各個所の補強に力を入れた。


「これで……よし、と」


 レンチでしっかしとナットを締め、修理を完了させる。

 一つ息を吐いた後、すぐに次の作業に取りかかった。作業用の汚れたシャツを脱ぎ、外出用の服に着替える。

 家の外に出て、一枚のカードを取り出した。


「来い! グリフォン!!」


 カードが光に変わり、目の前に大きな獣が現れる。

 白い鷲の頭に、大きな翼。体はライオンというBランクの召喚獣、グリフォン。

 背嚢を担いだダニエルは、さっそくグリフォンに跨り、ポンポンと首を叩いて合図を送る。

 グリフォンは「クエエエエ」と泣き声を上げて、空へ飛び立つ。

 大きな翼を優雅に羽ばたかせ、大空に舞う姿は凛々しいが、乗っているダニエルは怖くて必死にグリフォンにしがみつく。

 何回乗っても慣れはしない。


「あ、あんまり速く飛ばないでね。怖いから」

「クエエエエ!」


 ダニエルの願いとは裏腹に、グリフォンは全速力で目的地へと向かった。

 おじさんの絶叫だけが大空にこだまする。


 ◇◇◇


「はい、ありがとうございます」


 王都の北東にある召喚カードの専門ショップ。ダニエルはカードを八箱買い込み、大きな布袋に入れてもらう。

 うんしょ、うんしょと声を漏らしながら、店の外まで出てくる。


「はぁ……はぁ……やっぱり重いな」


 箱を入れた布袋を、店の裏手に待たせていたグリフォンの背中に乗せ、落ちないようにロープで縛る。

 次の街へ飛んで向かい、同じようにカードを買い込む。

 これを繰り返して持ち運ぶのが大変になってくると――


「召喚! 出て来い‶ロック鳥″」


 現れたのはCランク召喚モンスターの『★★★★ ロック鳥』。戦闘能力こそ無いものの、とても大きな鳥で荷物の運搬にはうってつけだ。

 多くの荷物をまとめ、ロック鳥に持たせる。


「頼んだぞ、家の納屋まで運んでくれ」


 ロック鳥は「ガァァァッ!」と鳴き声を上げ、大空へ羽ばたく。脚の爪でしっかりと荷物を掴み、一直線に家へと飛んでいった。


「さて、あともう少しだ」


 ダニエルはその後もカードの買い物を続け、魔道錬金用の‶魔石″も買い付ける。

 王都各地を回り、全ての買い物を終わらせる頃には、夜はすっかり深まっていた。

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