第17話 終焉

「はあああああああああ!?」


 ギルバートは何が起きたのか分からなかった。なにか閃光が走ったと思えば、王国自慢の飛空艇が爆散している。

 ――あの竜がやったのか!?

 さらに二つの頭が口を開く。口内が発光し、光りの弾を吐き出した。

 地上に当たった瞬間、眩い光と共に大爆発が起こる。大地はえぐれ、戦闘車両と兵士たちがまとめて吹っ飛ぶ。

 たった二つの光弾で大半の兵力が消滅した。

 玉のような汗が吹き出し、足が震えだすギルバート。ゆっくりと羽ばたき、降りてくる巨大な竜。

 ――ま、まさか……本当に神話の竜なのか!? 革命軍がそんな力を手にしたなど聞いてないぞ!

 竜は鎌首をもたげ、七つの頭を突き出して一斉に咆哮する。

 大気が悲鳴を上げ、大地が震え出す。声の衝撃波だけで吹き飛びそうになったギルバートは、必死に踏ん張りなんとか耐えた。

 だが、目の前には巨大な竜の顔がある。ゆっくりと凶悪なあぎとを開き、業火を口の中に生み出す。

 吐き出された灼熱の炎は、ギルバートを始め国防軍の大隊を飲み込んだ。


「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」

 

 生物に耐えられるはずのない炎の攻撃。ギルバートは一瞬で骨となり、その骨ですら焼き尽くされ灰になった。

 炎の津波は大地をなめ、広大な土地を焼いてゆく。

 残った飛空艇は逃げ出そうと旋回していたが、吐き出された炎で全てが爆発炎上。飛行艇が無くなっても炎の勢いは止まらず、空を赤く染めてしまう。

 地上部隊も壊滅をまぬがれた者たちは必死で逃げようとした。だが見逃してくれるほど竜は甘くない。

 七つの首から吐き出される炎は、あらゆるものを蹂躙した。

 町の裏手に回り込んだ国防軍の部隊以外は、全て消滅する。ダニエルは眼前の光景が信じられなかった。

 ――これがSランクモンスター……Aランクとは次元が違う!

 空も大地も炎で埋め尽くす。それは地獄と見紛うばかりの光景だった。


 ◇◇◇


 リズやアズベルト、そして革命軍のメンバーは呆然と立ち尽くした。

 迎え撃とうとした敵の飛空艇はことごとく焼け落ち。何百両の戦闘車、そして数千はいたであろう兵士たちは、今や火の海に沈んでいる。

 あまりの出来事に言葉が出てこない。

 やがて巨大な竜は光の泡となり消えていった。空からヒラヒラと落ちてくるを、ダークがパシリと手に取る。

 それを見たリズは、一目散に駆け出した。


「ダークさん!」

「ああ、リズ」


 ハァ、ハァと肩で息をし、ダークに話しかける。ダークは何事もなかったかのように本を取り出し、その中にをしまった。


「今の竜はダークさんが出した召喚獣ですか!?」

「う、まあ、そ、そうだな。私が召喚したモンスターだ」

「凄い! あんな凄いモンスターまで出せるなんて!! もう、無敵じゃないですかダークさん!」

「い、いや……それは言い過ぎだと思うが……」


 ダークは謙遜しているが、リズはそう考えなかった。

 革命軍『オドニア』は反体制派の中では最大勢力だが、近年は国防軍の武力弾圧にジリジリと押し込まれていた。

 なんとか現状を打破しなければ。

 そう思い各地で仲間を探していたのだが、ダークはまさに探し求めていた救世主だ。これほどの強さがあるなら、国防軍に対して反転攻勢をかけられる。


「ダークさん! 改めて、私たちと共に戦って下さい。お願いします!!」

「あ~、それはまた今度話し合おう。それより丘の反対側には国防軍の残党がいるようだが、そっちは大丈夫かい?」

「はい、我々の仲間が向かっているので問題ありません。主力を失った中規模の部隊にすぎませんから!」

「そうか……それなら良かった。じゃあ、私は急ぎの用があるから、これで――」

「え? もう、いっちゃうんですか?」

「ああ、悪いけど」


 ダークはそう言うと黄金の竜だけを残し、それ以外のモンスターを光に戻して召喚を解いた。足早に竜に駆け寄ると、金の毛並みが美しい背中にまたがる。


「ダークさん、細かい話は魔導具の‶洋紙皮″を介して伝えます」

「そうしてもらえると助かるよ。では!」


 ダークはそう言うと、金色の竜の首をポンポンと叩く。竜はバサリと羽ばたいて、空中に舞い上がった。

 リズたちは一歩下がり、その様子を見守る。

 ――この人は、きっと革命軍の切り札になってくれる。きっと……。

 竜は淡い光を放ちながら、凄まじい速さで大空を駆けていった。


 ◇◇◇


「まずい、まずい、まずい! 完全に遅刻だ!!」


 守護竜の背中に乗りながら、ダニエルは猛烈に焦っていた。すでに日は昇り、出社時間を過ぎている。

 研究所に遅刻したことなど一度もない。

 そんなことをすれば所長のアウラになにを言われるか……考えただけでブルルルと身がすくむ。


「と、とにかく急いで! 金羊毛皮の守護竜!!」

「ヴォオオオオ!」


 ダニエルの要望に守護竜は唸り声で答え、全力で飛翔してくれた。

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