第15話 包囲網
外に出て、全員で見晴らしの良い高台まで走る。町の人たちも多く集まる中、ダニエルが見据える先に、想像以上の光景が広がっていた。
「あれは――」
大軍勢。それ以外に適切な言葉が思い浮かばないほど、圧倒的な数だった。
地上には魔導戦闘車両が数百両、空からは軍事用の飛行船が数十機。町を取り囲もうとしている歩兵も、数千はいるだろう。
間違いなく、ここが革命軍の本部と分かっている布陣だ。
「……こんな大戦力で来るなんて」
リズが愕然とした表情で呟く。さすがにリズやアズベルトにとっても予想外の軍勢だったようだ。
ダニエルは逡巡する。いくらなんでも、これ以上革命軍に関わってはいられない。
報酬がもらえなくなるのは残念だが、ここにいては命がいくつあっても足りなくなってしまう。
幸い、自分が逃げるだけなら何とかなりそうだ。
ダニエルはそう思い、リズの方を向くと――
「この日のために準備してきました。ここには武器も多くあります。私たちの自力を国防軍に見せつけてやりましょう、ね! ダークさん!!」
「え?」
ダニエルは呆気に取られる。どう見ても勝てそうにない状況でリズやアズベルト、そして仲間たちはやる気満々だ。
「この本部なら東の砦と違って敵と戦うことができます。兵士も大勢いますし、なによりこっちにはダークさんがいますからね!」
「ん? んんん?」
リズの言葉にダニエルは耳を疑う。まるで参戦するのが当然のような口ぶりだ。
「その通りですぞ。奴らに目にもの見せてやりましょう、ダーク殿!」
アズベルトも興奮して言ってきた。ダニエルは「いやいや」と首を横に振る。
「私はあくまで一時的に手を貸しただけなんで……それにちょっと用事があるんで、そろそろ、お
「なにを言っているんですか、ダーク殿! ここからが我ら革命軍の真価が問われる一戦ですぞ!! あなたがいなくて、どうやって戦うんですか!?」
完全に革命軍の一員みたいな言い方をしているが、ただ依頼を引き受けただけで、入った覚えはない。
「いえ……私は一般人なので一緒に戦うのはちょっと……」
全力で拒否しようとすると、リズが食ってかかる。
「ダークさん、報酬ですか? もっと報酬を上げれば助けてくれるんですか!?」
人を金の亡者みたいに……当然、命をかけてまで金が欲しい訳じゃない。
「いや、そういう問題じゃなくて……とにかく大事な用事があって帰らなきゃいけないんだよ。悪いけど」
この後、研究所に出勤しなくちゃいけない。もし遅刻なんてすれば、アウラ所長にねちっこく叱責されてしまう。
「そんな……私たちは生きるか死ぬかの瀬戸際なんですよ! それでも置いていくって言うんですか!?」
かなり恨みがましく言ってくるが、こちらも引く訳にはいかない。
「実は二日も徹夜して寝てないから、ちょっと体調が悪くて……」
「私も昨日は寝てません! どんなに体調が悪くても、町の人たちはみんな戦おうとしています! お願いしますダークさん、どうか私たちと戦って下さい!!」
リズは泣きながら懇願してくる。
できれば助けてあげたい。だけど町の人全員は逃がせないし、Aランクのカードを使ったとしても、こんな大軍勢は相手にできない。
ダニエルは「すまない」と言って身をひるがえし、その場を去ろうとするが……。
「お願いしますダークさん……見捨てないで……」
リズが足にしがみつく。号泣しながら鼻水を流し、ぐちゃぐちゃの顔で引き留めてくる。
「わ、わしからもお願いしますぞ、ダーク殿! どうか……どうか……」
話を聞いていたアズベルトも足にしがみついてきた。こちらも号泣して鼻水を流している。周りにいる町民たちも鼻水を流し懇願してきた。
ダニエルの着る黒い外套は、鼻水まみれでベチョベチョになっている。
これはもう帰してくれそうにない。
「分かった! 分かったから、離して!!」
リズやアズベルトは、ホッと胸を撫で下ろして離れて行く。
「少し加勢するだけだぞ!」
キツめに言うとアズベルトは、「はい! それで充分です」と笑顔で返した。
リズは涙を拭いて鼻水をすすり、町の人たちに指示を出す。
「みんな準備をして! 国防軍を迎え撃つよ!!」
「「「おおっ!!」」」
全員が士気を上げ武器を取りに行く中、ダニエルはハァ~と息を吐く。高台の縁石に足を乗せ、眼下を見下ろす。
大軍勢は町を包囲し、突撃の準備を始めているようだ。
「これは逃げられそうにないな……」
包囲網を突破して退避ルートを作るしかない。
そのためには召喚している『カンヘル竜』と『金羊毛皮の守護竜』、そして『蒼炎のフェニックス』で戦うしかないだろう。
東の山で召喚したBランクのモンスターは、すでにカードに戻して回収している。
一日経たないと再召喚はできない。はたしてAランクカードだけで勝てるのか?
ダニエルは不安を覚えるが、本型ホルダーの一番後ろに入れていたカードに目をやる。それは、もしものために入れておいたカード。
「これを使うしかないのか」
ホルダーから抜き出したのは、七色に輝くドラゴンのカードだった。
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