第14話 革命軍の本部
うっすらと白みかけた空を、五体のモンスターが飛んでいた。
大きなロック鳥の背と足に六人、ヒポグリフの背に三人。金羊毛皮の守護竜の背に五人。グリフォンに乗っていたのはダークとバンデル。
そして、カンヘル竜がリズを抱きかかえながら飛行している。
「あ! ダークさん、あの丘の向こうです」
リズがダークに向かって大声で叫ぶ。リズが指差す方向を見れば、今まで暗かった大地が、朝焼けに照らされ輝き始めていた。
やがて見えてきたのは、小高い丘の上に作られた町だ。
中心に教会があり、周囲に民家が点在する、ごく普通の町。
「あれが……革命軍の本部?」
ダークことダニエルは眉を寄せる。リズに革命軍の本部まで連れて行って欲しいと頼まれたため、ここまで来たが、思いのほか普通の町でいささか戸惑う。
町の中心にある大通りに、召喚獣たちは降り立った。
モンスターに気づいた住民たちは驚いた様子だったが、負傷した革命軍の仲間を見るや、すぐさま治療の手配をして彼らを運んでいく。
「おお、リズ。無事じゃったか、東の砦が陥落したと聞いたので心配しておったぞ」
「アズベルトさん!」
リズに話しかけてきたのは初老の男性。白髪に白く立派な顎髭を貯えている。その後ろには数人の男女がいた。
「私は無事だったけど、砦にいたみんなが……」
「仕方がない。君らだけでも助かったなら、良しとしよう」
リズは振り返りダニエルを見た。
「あの人……ダークさんが私たちを助けてくれたんです」
「おお」
アズベルトは目を細めてダニエルを見る。リズはタッタッタと駆け出し、ダニエルの元まで近づいた。
「ダークさん、あの人は町長アズベルトさん。革命軍の幹部でもあるの。ダークさんのことも事前に話してあるから」
「そうか」
アズベルトはダニエルの元まで歩みより、深々と頭を下げる。
「わしは革命軍のアズベルト・フォロンド。あなたの話はリズから伺っております。この度は我々の同胞を助けて頂き、ありがとうございました」
「い、いえ、成り行きで、その……助けることになっただけです」
ダニエルは「報酬を支払う」と言うリズの言葉に釣られて、ノコノコここまで来てしまったが、改めて革命軍の幹部にあったことに怖気づいていた。
――ま、まずい。もし、ここで私が錬金研究所で働く公務員だとバレたら酷い目に遭わされるかも……。
彼らが戦う国防軍の武器は、ほぼほぼ錬金研究所で作られていた。間接的に敵対しているようなものだ。
ダニエルはゴクリと喉を鳴らす。
「本当になんとお礼を言っていいか……」
ダニエルの気持ちをまったく知らないアズベルトは、皺の深くなった顔を綻ばせ、手を取って感謝を伝える。
「ダーク殿、是非こちらでお話を」
「え? いや」
戸惑うダニエルを
結局、断り切れずダニエルは町長の家へと向かうことになった。
◇◇◇
「あなたのことは我々も注目しておりましてな。
アズベルトの話を聞きながら、ダニエルは「
今いるのはアズベルトの家の応接間。
黒を基調とした家具が置かれた、シックで上品な部屋だ。ダニエルは隣に座るリズと共に、皮張りの高級ソファーに腰を沈めていた。
「ダーク殿、コロシアムでは上位闘士になるのも近いと聞きましたが……」
「え? ええ、あと一回勝てば条件を満たして上位闘士になれるはずですが」
「すばらしい!」
対面に座っていたアズベルトは立ち上がり、再び握手を求めてきた。ダニエルが渋々応じると、アズベルトは目を爛々と輝かせる。
「どうかこれからも我々革命軍と一緒に戦ってくだされ! あなたがいれば百人力、いや千人力でもお釣りがきますぞ! ハハハ」
「い、いや、私は報酬を受け取りにきただけなので……」
「もちろん、報酬はお支払いします。そのうえで今後もお力添えを、どうかよろしくお願いします!」
「それは、そのー……」
あまり深入りしたくないと考えていたダニエルは、なんとか断ろうとする。
すると、遠くから爆発音が聞こえてきた。
「なんじゃ?」
なにが起きたか分からず、アズベルトは眉を寄せる。
爆発音は二度、三度と鳴り「なに、一体!?」と訝しんだリズが部屋の窓を開けて外を見る。
町の所々で火の手が上がっていた。
「攻撃されてる! きっと国防軍だよ!!」
部屋の中がザワつき、アズベルトたちは慌て出す。
――まさか、つけられたのか!?
ダニエルは一瞬そう考えたが、いや違うと頭を振る。飛行するモンスターについてこられるはずがない。それに追手がいないか、絶えず警戒していたんだ。
それなのに……。
「たぶん、この場所がリークされたんだと思う」
答えたのはリズだった。悔しそうに唇を噛み、意思の強そうな目で外を見る。
「リーク? 仲間が裏切ったってことか?」
ダニエルの問いに、リズはコクリと頷いた。
「東の砦も、国防軍に場所が分かるはずがない。それなのに場所が特定されたってことは……」
――なるほど、内部に裏切り者がいるということか。大きな組織である以上、充分ありえる話だな。
ダニエルは爆音を聞きながら、とてつもなく不安な気持ちになった。
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