第46話 最後の召喚

「そんな!」


 リズの絶叫。敵も味方も関係なく殺す気だ。

 前線で戦っていたエデルは‶オーラ″を全開にして爆発を跳ね除け、ダニエルの周囲で起こった爆発は、カンヘル竜が‶風の魔法″で防いでいた。


「ありがとう、カンヘル竜!」

「このくらい朝飯前ですぅ!」


 カンヘル竜は胸を張って微笑んでいたが、対照的にリズは膝を折り、ペタンと座り込む。


「……そんな……ここまで来たのに……最後にこんな」


 リズの顔から生気が失せる。今の爆撃で、革命軍の部隊は半壊状態。恐らく飛空艇に積み込まれている爆弾はまだまだあるだろう。

 その上、空中にいる飛空艇には手を出せない。

 打つ手がない状況に、革命軍の兵士たちは呆然としていた。

 そんな時――

 夜空に丸い光が浮かび上がる。光の中には人影があり、豪奢な衣服を着た男が立っていた。映像は飛空艇の前に投影されている。魔道具の一種だろうか? 

 問題はそこに映っている魔族だ。


「あれは……まさか!」


 ダニエルが驚愕していると、映し出された男は威厳のある雰囲気で口を開く。


『わしはフォートブルグ王国の国王、ルドルフ・コンラート。革命軍の兵士たちよ、王国をここまで追い詰めたこと、素直に誉めてやろう。しかし貴様らの蛮行もここで終わりだ。一人残らず殺していく、精々最後の一人になるまで恐怖するがいい』


 冷酷な宣言をするルドルフ王に、ダニエルやリズたちは戦慄する。だが、映像からは別の声が聞こえてきた。


『……話が違う! ……は助けてくれるって……じゃないか!』


 ルドルフはわずかに首を動かし、フッと口元を緩める。


『ああ、そうであった。一つ貴様らに伝えておくことがあったわ。その男をここへ』


 映像には二人の兵士に脇を抱えられた男が映し出される。無理矢理連れて来られ、王の前で膝を折る。

 その男の顔を見て、リズが目を見開いて叫んだ。


「バンデル!!」


 バンデルは両手を縛られ、苦々しい顔で王を睨みつけていた。


「約束が違うぞ! 情報を上げれば、仲間は助けてくれるって言っただろう!!」


 必死で訴えるバンデルに対し、王はわずらわしそうに口を開く。


「愚かな……わしが不純種などと約束を交わす訳がなかろう。お前の役割はここまでだ。殺せ」


 バンデルの後ろにいた兵士が魔導銃を構える。映像に映し出されたバンデルは、膝をついたまま顔を上げる。


「ごめん……リズ……故郷にいる家族が、母親と妹が人質に取られて……リズたちは助けてもらえるって聞いてたのに――」


 それ以上、バンデルの言葉が続くことはなかった。

 ゆっくりと倒れた彼の背後で、魔導銃が残酷に煙を吐く。上空に照らし出されていた映像はプツリと消え、空は元の闇を取り戻す。

 リズの叫びが辺りにこだまし、伸ばした手が虚空を彷徨う。


「そんな……バンデル……どうして……」


 膝をつき、両手で顔を覆って泣きだすリズに、ダニエルはかける言葉が見つからなかった。

 リズがバンデルを兄のように慕っていたことは知っている。そのバンデルが革命軍を裏切っていたのだ。

 彼女が受けたショックは計り知れないだろう。


「リズ、彼には選択の余地がなかったんだ。家族が人質に取られているなら、従わざるを得なかったと思う」


 リズは涙を拭い、頭を振る。


「ダニエルさん……ありがとう。でもバンデルがやったことは赦されることじゃありません。彼のせいで多くの同胞が死んでしまった」


 フラつきながらも立ち上がり、リズは空に浮かぶ船を睨む。


「バンデルの罪は赦さない! でも、それ以上に彼を操り、その心をもてあそんだ王族たちを私は絶対赦せない!!」


 決意の言葉は夜空に消えたが、ダニエルは確かにその思いを受け取った。

 飛行艇は再び動き出し、爆弾を投下していく。残った革命軍を皆殺しにしていくつもりなのだろう。

 地面で弾ける爆炎を見ながら、ダニエルは腰の本型ホルダーに手を伸ばす。

 中らか一枚のカードを取り出した。

 ――これが最後の召喚になる!

 ダニエルは高々とカードをかかげ、大声で叫んだ。


「来い! 黙示録の赤い竜アポカリブス・レッド・ドラゴン!!』


 溢れ出した七色の光が、夜の闇を切り裂いた。

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