第34話 失職の危機
「一体、君はなにを考えているんだい!? 仕事の途中で帰るなんて、無責任にもほどがあるだろう!!」
研究所で激怒していたのは、所長のアウラだ。ダニエルが昨日無断で欠勤したことに腹を立て、朝から大声で怒鳴っていた。
「だいたい、なにをやっていたんだい? 大事な仕事が立て込んでたんだよ!」
「は、はい……もちろん分かっております」
「分かってないよ! 分かっていたら欠勤などしないだろう!!」
ひたすら頭を下げるダニエルに、アウラは唾を撒き散らして怒声を上げる。
こってり二時間は絞られ、フラフラになりながらデスクに戻ったダニエルは、ぐったりとした様子で椅子に腰を下ろす。
「大丈夫ですか、ダニエルさん?」
「ああ、うん……」
隣のデスクからドナートが、心配そうに声をかけてくる。
「昨日はビックリしまいたよ。突然出ていくんですから」
「ごめんね。驚かせちゃって……どうしても行かなきゃいけない用事を思い出しちゃってね」
ダニエルは苦し気な表情で微笑む。
「まあ、たまにはいいんじゃないですか? ダニエルさんは真面目すぎますから、ちょっとくらいハメを外しても」
「そう言ってもらえると助かるよ。ドナート」
二人がそんな話をしていると、
「なんだろう?」
ダニエルが怪訝な顔をしていると、一人の職員が研究室の中に入ってきた。所長室をノックし、アウラとなにかを話している。
なにか嫌な予感がして、ダニエルの心拍数は速くなってゆく。
部屋の外には兵士の姿まで見えた。国防軍の人間か? アウラが所長室から出て、ダニエルたち研究員を集める。
「今、緊急の連絡があった。この中で入出時に使う魔道具の‶カフス″を持っていない者はいるかな?」
ダニエルの心拍数が跳ね上がる。アウラが透明なビニール袋に入ったカフスボタンを掲げていた。
――あ、あれは昨日無くしたボタン! あの町で落としたのか!?
ダニエルは急いでリズを助けに行ったため、出勤時の服装の上に外套を着て出かけていた。カフスを紛失したことには気づいていたが、グリフォンで飛んでいる時に落としたのだろうと高をくくっていた。
――大失態だ! 革命軍に協力している証拠を残すなんて……。
研究員全員が、
「ふむ、全員がつけていますか……仕方ないですね」
研究員になった場合、入館証となるカフスボタンが一人につき一つ貸与される。
もし無くせば所長に報告し、反省文を書いたあと新しい物が貸与されるはずだが、所長のアウラが許すはずがない。
大問題だと言って解雇しようとするだろう。
そのためダニエルは複製品をあらかじめ作っておいた。これなら万が一カフスを無くしても、問題にならないかもしれない。
今、袖に付けているのは、そんな思いで作った複製品のカフスだ。
所長と研究員はなにかを話し合い、研究室の外へと出ていく。国防軍の兵士もそれに付き添っていった。
「なんだったんですかね……どう思います? ダニエルさん」
「え!? あ、うん」
ドナートに突然声をかけられ、ダニエルは慌てて返事をする。
「なにかトラブルがあったのかな? よく分からないけど」
ダニエルはそう返すのが精一杯だった。心臓がドキドキと早鐘のように鳴る。
魔道具のカフスは、製造元で調べることができる。徹底的に調査すれば、いつ頃作られ、どの部署に貸与されてのか分かるはずだ。
かなり時間はかかるだろうけど、いずれバレてしまう……なんとかしないと。
◇◇◇
それからの一週間は怒涛の忙しさだった。
革命軍の隠れ家へと戻ったリズは、自分自身が大変だったにも関わらず、ダニエルに対する報酬を払ってきた。
以前と比べれば少ない金額だったが、壊滅状態の革命軍が出す金額としては充分だろう。
そして魔導錬金研究所の月給と、コロシアムで勝った報奨金。
全て合わせてカードの購入金を確保し、リズにも協力してもらって各地のショップで召喚カードと魔石を買えるだけ買いまくった。
「これだけあればなんとか……」
ダニエルは用意したカードと魔石を地下室へと運び込む。
しばらくすれば、ここにも国防軍の手が伸びるだろう。コレクションしている召喚カードはバインダーごと運び出せるが、目の前にある‶魔道錬金装置″は動かすことができない。
「これは破壊するしかないな。見つかればかなりの問題になるだろうし、魔族に強い召喚獣を作らせる訳にはいかない」
設計図は持ち出せる。これが壊れても時間と資金さえあれば、また同じ物を製造することもできるだろう。
「その前に最後の召喚カードを作らないと」
ダニエルはカードが入った小袋を開き、ランク別に分けていく作業に取りかかる。時間が掛かるため、翌日は研究所は無断欠勤することにした。
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