第36話 反乱分子

「行け! ベオウルフのドラゴン、全てを焼き払え!!」


 ダニエルの声に応え、バサリと羽ばたいたドラゴンは口に灼熱の火種を溜める。

 その様子を下で見ていたアウラは目を白黒させ唖然とした。


「あ、あれが……ダニエル? なんだ、あの仮面の姿は!?」


 驚いていたのはアウラだけではなく、集まっていた国防軍の兵士も慌てふためいていた。怒鳴り声を上げながら、上空にいるドラゴンに発砲する。

 だが、どれだけ魔導弾を撃ち込もうと、竜の硬い鱗に阻まれる。

 ドラゴンは口からチリチリと漏れ出す炎を一気に吐き出した。炎は火球となり、家の屋根を突き破って爆発する。

 衝撃で壁や窓、柱などが粉々に吹き飛び、地下にある【魔導錬金装置】は完全に破壊された。

 ダニエルは燃え盛る自分の家をしばらく見つめると、グリフォンの首を撫で、住み慣れた家を後にした。


 ◇◇◇


 王都の外れにある古びた骨董店。

 その二階にリズとバンデルがいた。この骨董店は王都にいくつかある革命軍の隠れ家の一つだ。

 政府に見つかることなく潜伏していたが、心配になる連絡が入っていた。


「大丈夫かな? ダークさん……」


 ダイニングテーブルに座るバンデルが不安気に呟く。対面に座るリズは険しい顔をしながらも、気丈に答える。


「大丈夫。あのダークさんが捕まる訳ない、どんなピンチだって切り抜けるよ!」


 一昨日、洋紙皮を通してダークから連絡がきていた。自分の素性が国防軍にバレたから、今住んでいる家を引き上げるといった内容だ。

 昨日のうちに大きな鳥がいくつかの荷物を運んでおり、今日、ダーク自身もここに来る予定だったのだが。


「やっぱり遅いよ! なにかあったんじゃ……」


 そわそわするバンデルにリズは「大丈夫だから落ち着こう」と言ってなだめる。

 しかし、そんなリズ自身も不安で仕方なった。革命軍が壊滅状態の今、ダークを失えば組織の立て直しも困難になる。

 そう思っていると、テーブルの上に置いてあった洋紙皮が光る。

 慌てて広げると、そこにはダークからのメッセージが書かれていた。リズは一も二も無く部屋を飛び出し、骨董店の外に出る。

 上空を見上げると西の空に、小さな点が見えた。


「バンデル、あれ!」


 バンデルはリズが指差す方向を見る。そこには人を乗せたグリフォンが、こちらに向かって飛んできていた。

 翼を羽ばたかせた優雅な獣、骨董店の裏庭に静かに降り立つ。


「ダークさん、心配しました。その……本当に政府に知られたんですか?」


 リズが恐る恐る聞くと、グリフォンから降りたダークは小さく頷く。


「ああ、家が特定されてね。逃げてくるので精一杯だった」


 その言葉を聞いて、リズは深々と頭を下げる。


「ごめんなさい! ダークさん。私たちの戦いに巻き込んだせいで……ダークさんの日常生活を奪ってしまって」


 それは心からの謝罪だった。本来ならコロシアムで順調に勝ち続け、充分な報奨金を受け取り、ダークは悠々自適に暮らしていただろう。

 自分が革命軍に誘ったために、彼の生活を滅茶苦茶にしてしまった。

 リズはそう思い、後悔の念にさいなまれたが、もはやどうすることもできない。


「気にしなくていい。政府に情報が漏れたのは、私の失態だからね」

「でも……」

「それより今後、君たちがどうするのか教えてくれないか? 私にできることがあったら協力しよう」


 その言葉を聞いてリズは息を飲んだ。ダークが力を貸してくれれば、戦力は大幅にアップする。願ってもない申し出だ。


「わ、分かりました! こちらに来て下さい。革命軍の方針をお伝えします」


 リズはダークを骨董店の中に招き、辺りを確認してから裏口の戸を閉めた。


 ◇◇◇


 フォートブルグ王国、王城――

 王や大臣が居並ぶ円卓の間に、魔導錬金研究所の所長アウラが連れて来られていた。

 ビクビクしながら辺りを見回していたアウラは、ルドルフ王に見据えられ、完全に固まってしまう。


其方そなたが魔導錬金研究所の所長か……此度こたびはなぜ呼ばれたか分かっておろうな?」


 静かに白い顎髭を撫でる王に対し、アウラは泣きそうな声で答える。


「は、はい! もちろん分かっております。我が研究所に、革命軍の反乱分子がいたこと、ま、誠に申し訳ありません!! 気づくことができなかったのは、所長である私の失態です」


 深々と頭を下げるアウラ。恐怖でプルプルと震えていた。


「そなたの元にいたのは、ただの反乱分子ではない。国防軍の大隊を滅し、最強の戦士の一人である‶剣神アキーレ″を殺したのだぞ。まさに革命軍の主力と言って間違いなかろう」

「そ、そんな……ダニエルはうだつの上がらない研究員で、そんな力があるはずが」


 アウラの答えに王は眉を寄せる。


「聞けば、その者はコロシアムで無敗の戦果を上げ、史上最速で上級闘士となったと聞く。そんな者が近くにいて、まったく気づかなかったと言うのか!?」

「そ、それは――」

「もうよい、近衛兵! その者を幽閉せよ」

「お待ちください! 私は、私は国に忠誠を誓った……」

「役に立たぬ者はいらぬ」


 王の命によりアウラは連れて行かれた。それを見ていた大臣たちは、王の怒りを買わぬよう、一様に顔を伏せていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――


 次回より、一日おきの更新にしたいと思います。

 第37話は6月22日の17:00頃を予定しております。

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