第31話 封印が解かれる時
「ふんっ!」
男はつまらなそうに剣を振るう。
光り輝く剣筋が幾重にも放たれ、ギガンテスの足はバラバラに斬り裂かれた。巨人はバランスを崩し、ドスンッと地面に倒れる。
大地が揺れ、土煙が舞い上がった。
「そんな!」
ダニエルが男の姿を探すと、いつの間にか空中に飛び上がっている。男が煌めく剣を振るう。
ギガンテスの首が斬り落とされ、巨人は光となってカードに戻った。
手元にきたカードを、ダニエルは苦々しく見つめる。
――Aランクモンスターであるギガンテスをこんな簡単に……。やはり、こいつは並の魔族じゃない!
ダニエルは一歩、二歩と後退した。
倒せるカードあるとすれば、Sランクのカードだけ。しかしあのカードを使うのは危険すぎる。
「どうした? お前が、国防軍大隊を消滅させた召喚士なんだろ?」
男が笑みを浮かべながら近寄ってくる。
「私の名はアキーレ。国王陛下より直々に貴様の抹殺を仰せつかった。強力な召喚獣がいると聞く。見せてみろ、それを倒して我が軍の汚名をそそぐ!」
絶対の自信。このアキーレと名乗る男は、自分が負けるなど
やはり『魔王』のカードを使うしかないのか?
このカードはコントロールできるかどうか分からない。最悪、暴れ回ってこちらに被害が出ることだってありえる。
ダニエルは相手との距離を保ちながら、弧を描くように歩く。
後ろ手に持ったSランクカードは、男には見えていない。いつでも使うことはできるが決心がつかない。
「召喚しないのか? だったら遠慮なく殺すぞ」
アキーレの目がギラリと光る。ダニエルはマスクの下に汗を掻きつつ、相手の動きを警戒する。
「どうして町の人を殺した? 人間といえど王国の市民だろう!」
「はっ、革命軍らしい言葉だ。王国の市民は魔族だけだ。人間と薄汚い
ダニエルは吐き気がした。典型的な純血主義の考え方。
カードを持つ手に力が入る。
「お前も
「一緒にするな!」
「ふふ、人間が殺されてそれほど怒るなら、同族の
アキーレは上空に視線を移す。
そこにいたのはグリフォンに乗ったリズとバンデルだ。アキーレは剣を向ける。
「やめろ!!」
ダニエルは持っていたカードをアキーレに向かって放り投げた。
リズとバンデルは
カードはバチバチと弾け、虹色の光を放つ。次の瞬間、アキーレの目の前に黒い炎が噴き上がる。
黒炎は空に向かって立ち昇り、巨大な火柱となった。
「おお、やっと召喚したか! 我が軍を消滅させたモンスター。血湧き肉が躍るぞ。革命軍の召喚士よ!!」
アキーレは両手を広げ、嬉々とした表情で空を見上げる。
この戦闘に狂った様子。やはりコロシアムで戦ったエデルと同じタイプの魔族だ。ダニエルはそう確信し、アキーレから距離を取る。
「さあ、どんな召喚獣が出てくるのか楽しみだ」
舌なめずりするアキーレの前で、炎は徐々に収まってきた。そして見えてきたのは一人の男。
黒い髪に、黒い手足。背中には黒い翼があり、黒い槍を持っていた。
こめかみからは特徴的な赤くねじれた角が生えている。召喚された魔族はどこを見るでもなく、虚ろに虚空を眺めていた。
――Sランクモンスター‶魔王サタン″……魔族の頂点にして、封印された化物。本当に召喚できてしまった。
「これが、最強の召喚獣なのか? 少し拍子抜けだな」
アキーレは剣を構えると、躊躇することなくサタンの胸に剣を突き立てた。
「ふん、他愛ない。この程度……」
鼻で笑っていたアキーレの顔が曇る。サタンの右胸に刺さった剣が、抜けなくなっていたからだ。
「な、なんだ!? 一体」
「あん?」
サタンがダニエルの方に顔を向ける。
「おいおい、俺様を呼び出したのはお前か!? 下等種?」
ダニエルは冷や汗が出る思いだった。魔族の王であるサタンは、生粋の純血主義者だと歴史書に記されている。
もう人間だとバレているのか? だが、ここでなめられる訳にはいかない。
「お前を召喚したのは私だ。我が命に従い、
「誰に向かって命令してんだ!? 俺様に命令できる者など――」
恐ろしい形相でダニエルを睨みつけていた魔王が、自分の胸に剣を突き立てるアキーレに視線を移す。
「おい、貴様。誰に剣を刺してるんだ?」
アキーレは剣を抜こうと「ぐぬぬぬ」と力を込めていたが、サタンに睨まれ一瞬、体が強張る。
「おのれ、召喚獣ごときが! 今、八つ裂きに……」
気づけばアキーレの体は宙を舞っていた。恐ろしい速度で吹っ飛ばされ、町の民家に激突。それでも勢いは止まらず、家を破壊して外へ飛び出す。
剣は抜けていたが、あまりの衝撃でアキーレは息ができない。
「かはっ……あ……なにが……」
煙を上げる瓦礫の向こうから人影が歩いてくる。それはアキーレが剣を突き立てた魔王、サタンだ。
サタンは自分の胸についた傷をそっと手で触れる。
指先に付いた血をペロリとなめた。
「貴様……魔王である俺様に傷をつけて、簡単に死ねると思うなよ」
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