第9話 その時は一瞬で
「レイン、お前に騎士団から依頼が来てるぞ」
僕の研究室に師団長がやって来てそう告げたのは、あのデートから五日経った日だった。
僕はあれから仕事に忙殺されて、研究室に泊まり込んでいた。魔術師団の敷地内に自身の部屋を与えられているが、研究室に泊まり込むのはよくある。
が。彼女に会いに行けていない。彼女に会えなくて僕はイライラしていた。
こんなにも僕の心を彼女が占めるなんて思ってもいなかった。
指輪ももうすぐ出来上がるだろうし、それまでにはこの仕事を片付けようと僕は躍起になっていた。
そんな時に師団長が新たな仕事を持ち込んで来たので、
「はあ?」
である。
「まあ、そう言うなー。お前の親友たっての頼みだー」
「あいつ、帰ってきたんですね」
今回は長い遠征だった。最近、魔物が頻繁に出るようになったらしいとは聞いていた。だからこそ、今僕も仕事に忙殺されているのだけど。
アイルには会いに行きたいと思っていた。丁度良い。
「どういう依頼ですか?」
「あー、お前の時魔法あるだろ? それを使って欲しいらしい」
師団長の説明によると、騎士団に入団した新人の育成のために、連携の取れている第一部隊をお手本にするための記録らしい。
「明日、近場の森で実践するからお前は記録のために行ってくれ」
「わかりました」
そう言うと、師団長も忙しいせいか「よろしく」と言ってすぐに帰って行った。
いつもなら「最近どうだ?」とか言ってお茶くらいしていくのに。
「第一部隊か……」
第一部隊は騎士団の中でもエリート部隊の集まりだ。魔術師も派遣されるが、大抵はサポート能力が得意とする者が呼ばれる。
僕も一緒に仕事をしたことは無い。
明日は副団長のアイルも立ち会うらしい。彼には聞きたいことと報告したいことが山ほどある。
それに僕の時魔法を、僕が発動しなくてもスイッチ一つで再現出来るアイテムを研究をしていて、それがようやく完成したので、丁度良い。
このアイテムが成功なら、今回の記録を見せるために僕がいちいち呼ばれることも無い。
「うーん、楽しみだ」
研究の成果を発揮できる時が一番嬉しい。しかもそれが人に見てもらえるなら尚更。
僕は承認欲求が強いのかもしれない。
だから彼女が何も言わない僕を、何も言わずに受け入れて、優しく笑って隣にいてくれるのが心地良い。
「会いたいなあ……」
僕はポツリと呟いて、また仕事に向かった。
◇◇◇
次の日は良く晴れて、討伐日和だった。
一旦騎士団に集合して、僕は馬車に乗せてもらう予定だ。王都を出てすぐ近くの森での討伐なので、転移魔法で行けてしまう距離だが、今日は時魔法を使い、しかもアイテムに転移するという大技を使うので、魔力の消費を抑えたい。
魔法付与の延長線上だけど、時魔法を転移させるのは、かなり消費するのだ。
騎士団の前までやって来ると、アイルが僕を出迎えてくれた。
「久しぶり! 今日はよろしく」
「話したいことが沢山あるよ」
久しぶりに会えた嬉しさで、お互い肩を組みあった。
「お前、リナと上手くやってんのか〜?」
知り合いとは聞いていたが、名前で呼ぶくらいなので、親しい間柄なのだろう。
「ま、討伐が終わったら詳しく聞かせてくれ」
アイルがポンポンと肩を叩き、一緒に集合場所に向かった。
集合場所には馬車や馬が用意されていた。今日は第一部隊だけなので20人くらいが集まっている。騎士たちはアイルが到着するなり、一列に並び、敬礼をした。
おお、流石第一部隊。統制が取れてる。
そして僕は移動用の馬車に案内されたが、アイルが第一部隊の隊長を紹介すると言うので、乗らずに待っていた。
「お初にお目にかかります! 第一部隊隊長を任されております、マリウス・ブローダーです」
隊長は一気に自己紹介を言い終わると、ん?という顔で僕を見てきた。
赤い髪に、赤い瞳。
「あっっっっっっ!!!!」
僕は思わず叫んでしまった。この前のデートで、彼女と揉めていた男だ!
見たことあると思っていたら、第一部隊の隊長だったなんて……!
「レイン、どうした?」
アイルが心配そうにこちらを見たので、
「何でも無い……」
と思わず答えた。
しかし、驚いていたのは彼も同じで。
「先日は失礼しました。やはり、魔術師団の副師団長殿でしたか」
彼は丁寧なお辞儀で僕に謝罪を述べると、その態度と言葉とは裏腹に、僕をギッと睨んで来た。
「リナとはどういう関係で……?」
騎士らしいその問い詰め方に、僕は思わずそっけなく答えてしまう。
「君には関係無い」
「なっ……!」
そう答えた僕に彼はカッとなった。
「関係なくは無いっっ!!」
そう言い放った彼に、僕は物凄い不快感を覚えた。その不快感全開に僕は彼に尋ねようとした時だった。
「それ、どういうーー」
「聖女様がご到着されました!!」
第一部隊の騎士がアイルに報告に来た。
「はいはい、二人、何があったか知らないけど、話の続きは討伐の後ね」
報告を聞いたアイルが僕たちの間に入って、手を叩いて言ったので、隊長の彼も「失礼しました!」と言って、素早く自分の持ち場に戻って行った。
戻りながらも彼は、こちらをしきりに気にしているようだった。
何を気にしているんだ……?
その違和感の正体はすぐに判明した。
「レイン、お前は聖女と一緒に馬車な」
アイルがそう言うので、振り返ると、アイルの後ろに聖女が隠れていた。
「………?」
不思議に思っていると、アイルがにっかりと笑って、
「仕事とは言え、二人っきりの時間を作った俺に感謝するように!」
そう言ってアイルが後ろからグイッと引っ張って前に押し出したのは、気まずそうな顔の彼女だった。
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