第44話 病める時も、健やかなる時も

「レイン、おめでとう……!!」


 教会に着くと、シスターが出迎えて、僕を抱きしめてくれた。


「ありがとうございます」


 僕も母であるシスターを抱きしめ返し、感謝を伝えた。シスター越しに、アイルも教会に到着していたのを確認する。


「よ、今日はおめでとう!」

「ありがとう」


 相変わらず軽いノリのアイルにホッとするも、すぐに僕に緊張が走る。


「初めまして。アイルの父です。君の噂はかねがね」


 アイルの親父さんだ!!


「初めまして、バーシュタイン様。本日はよろしくお願いいたします」


 差し出された親父さんの手を僕は取り、カチコチになりながらも何とか答える。


「リナは娘同然だが、君も私の息子になるようなものだ。そんな二人を危険な場所にやらなくてはならないなんて…すまない」


 親父さんの温かい言葉に、僕の緊張もほぐれ、ジーンとする。


「いえ、二人で決めたことですから。それに、必ず帰って来ます」

「そうか」


 僕の言葉に親父さんは、穏やかに笑って答えてくれた。


 親父さんは見た目はアイル似のイケオジだが、性格は落ち着いていて全然違う。アイルの性格は母親譲りなのかな?


 そうこうするうちに、神父さんもやって来て、僕たちは教会の中で待機した。


 小さいながらも、教会は厳かな空気に包まれ、僕の背筋がピシッとなる。


神父様の後ろには美しいステンドグラスの女神様がいて、僕たちのこれからを見守ってくれているようだった。


 アンが、教会の中に到着し、リナの支度が整ったことを合図すれば、教会の扉がギギギ、と音を立てて開かれた。


 アイルの親父さんの腕を取り、中に入って来たリナは、髪をアップにし、白いレースのベールを顔に纏っていた。


 その姿に、顔は見えないが、キラキラと光って見え、僕はつい、ぽーっとしてしまった。アンが顔を覗かせ、僕にVサインを送っている。


 親父さんに連れられ、ゆっくりと僕の元に歩み寄ってきたリナの手を、受け取る。


「リナ、綺麗だ」


 ベール越しの彼女にコソッと言えば、「ありがとう」と彼女も囁いて笑った。


 そして僕たち二人は、神父様に向き直る。


「レイン・アーシュター、あなたはリナを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」


 僕は神父様の言葉に誓いを立て、続けてリナも誓う。


「はい、誓います」


 リナの言葉に、僕の心は感動に包まれた。こんなに幸せなことって無い。


「誓いのキスを」


 神父様の言葉で僕たちは向かい合い、僕はリナのベールを上げた。


 可愛くメイクアップされたリナの顔が露わになり、僕は思わず顔を赤らめてしまう。


 アン、グッジョブ!


 心の中で僕は親指を立てて、アンを褒めた。


「レイン?」


 リナに見惚れていた僕を心配して、彼女が心配そうにこっそりと言うので、僕は恥ずかし紛れに、意地悪を言ってしまう。


「今日は人前でキスしても怒らないんだね?」

「もう!!」


 僕の言葉に、綺麗な彼女の顔が赤く染まり、頬を膨らませる。


「はは、ごめん」


 僕はそんな彼女がまた愛おしく、口づけをした。


 唇を離すと、幸せそうに涙を滲ませるリナがいて。


 参列してくれた皆が祝福の拍手を贈ってくれた。


「リナ、僕の奥さんになってくれてありがとう」


 僕も幸せを滲ませてそう言えば、リナも笑顔で返してくれた。


「私の方こそ、ありがとう」


「おめでとう!」

「おめでとう!」


 皆の言葉に送られながら、僕たちは教会の外に出る。するとーー


「おめでとー!レインおにーちゃん!リナおねーちゃん!」


 孤児院の子供たちがフラワーシャワーを降らせながら、僕たちを迎えてくれた。


 いつの間にか外に出ていたアンと、マリウスが子供たちを見守りながら、笑って立っていた。


 嬉しいサプライズに、隣のリナは涙をポロポロと溢していた。


「マリウスが子供たちを連れてきてくれたの?」


 リナにハンカチを手渡しながら、マリウスにそう問えば。


「俺はアンに頼まれて、式が終わる頃を見計らって連れて来ただけだ」

「アンはこの計画も、お花の手配も、二人のためだって一人でやっていたのよ」


 教会から出てきたシスターが嬉しそうに僕たちに教えてくれた。


「そうなのね、ありがとう。アン」

「リナもレインにーちゃんも、私の大切な人だからね!これくらいしか出来ることないけど」


 リナがお礼を言うと、アンは照れくさそうに、ニカッと笑った。


 僕もアンにお礼を言って頭を撫でると、アンは嬉しそうに「えへへ」と笑った。


「マリウス様も、ありがとうございました!」

「いや。二人の姿を見られて俺も良かった」


 アンがマリウスに向き直ってお礼を言うと、マリウスは静かに微笑んだ。


「次はきっとマリウス様が幸せになる番です」

「そうか……そうだと良いな」


 いつの間にか仲良くなっていたマリウスとアン。僕はそんな二人の未来もあるのかな、と思い描いてしまった。それはリナも同じみたいで。


「ね、アンとマリウス、意外とお似合い?」


 と僕にこっそり耳打ちして笑った。


 この日リナは、リナ・アーシュターになった。


 大切な人たちに祝福されて夫婦となった僕たちは、この温かい場所に絶対にまた帰ってこよう、と約束をした。

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