第43話 結婚式
あれから。この国を揺るがす事態に、一人の聖女が派遣されることが発表された。もちろんリナのことだ。
騎士団団長と師団長に、その指揮の全権が与えられたため、僕やアイル、第一部隊がリナと一緒に行くことは簡単に認められた。
まあ、この国の行く末がかかっているので、そこに充分な戦力を投じるのは当たり前の判断だ。僕はリナをこの国の犠牲にさせる気は無いけど。
そんなこんなで、この作戦の実行は四日後になった。その間、各自準備や、大切な人と過ごすための時間を与えられたのだ。
「リナー! レイン兄ちゃーーん!」
アンの出迎えの声に、僕たちはまたここに帰ってきたのだと実感する。子どもたちも、ブンブン手を振ってくれている。
「シスターは?」
「もう教会の方に行ってるよ」
子どもたちを見ながらも、アンは笑顔で答えた。
そう。僕とリナは、今日夫婦になるべく、孤児院近くの教会で誓いを立てるためにここに来た。
列席者は、シスターとアン。それに後からアイルが親父さんも連れてくる。元騎士団長の親父さんは、リナにとってお父さんのような存在なので、とても緊張する。
「で? そちらは?」
色々考えながら緊張していた僕に、アンが後ろにいたマリウスを指さした。
「マリウス・ブローダーだ。今日は任せてくれ」
マリウスが前に出、アンに手を差し出して挨拶をした。
マリウスは僕たちの結婚式の間、子どもたちの世話を申し出てくれたのだ。
「アンです。リナとレインにーちゃんがお世話になってます!」
アンはマリウスの手を取って、満面の笑みで答えた。と、同時に。
「うっわ、すっごいイケメン。レインにーちゃん、危なかったね」
事情筒抜けのアンが悪びれもせず言うので、僕は慌ててアンをマリウスから引き剥がした。
リナは何のことかわかってないし、マリウスは推察したようで、複雑な顔をしている。
「ま、とにかく、おめでと! 良かったね!」
アンから満面の笑顔で祝福をされて、僕も笑顔でお礼を言った。
「じゃあ、お願いして良いのかな?」
アンはマリウスに向き直ると、子供たちを見ながらマリウスに言った。
「ああ、任せてくれ。兄妹たちの世話で子供は慣れている」
「すごい、性格もイケメン!」
思ったことをすぐ口にしてしまうアンに、マリウスはタジタジだ。珍しく赤くなっていて、面白い。
それから、リナはアンに連れられて、孤児院内に準備へと向かった。
当初、式は後でするから、簡素に大切な人たちの前で神様に誓えばいいや、くらいだったのだが。
アンから猛烈に反対されて、「リナのヘアメイクだけでもさせて!」と言われたのだ。
「さて、僕は先に教会で待てと言われてるし、向かうかな」
マリウスの方を見れば、「騎士さまー」と女の子にも男の子にもモテていた。流石マリウス。
僕はマリウスにも出席して欲しかったな、という勝手な想いは言えなかった。
マリウスはまだリナのことを吹っ切れずにいるかもしれないのだから。
僕たちは打ち解けあったが、リナへの想いはまた別の話だろう。
「結婚式には必ず行く。心配しないでください」
僕がマリウスの方を見ていると、子供の相手をしていた彼が、顔だけこちらに向けて言った。
「え! なっ?!」
まるで僕の心を読んだかのようにマリウスが言うので、僕は慌ててしまった。
「あなたは顔に出やすい」
慌てる僕に、マリウスはほんの少し口の端を上げて言った。
「流石、騎士団の隊長だね……」
僕は恥ずかしくてまともにマリウスを見られず、目線をあさっての方向に向けていた。
さっき、アンにはタジタジになっていたくせに!
「一緒にいるうちに、人となりはわかるものだろう?」
マリウスが穏やかに微笑んで言うので、僕は、あ、となった。
僕はマリウスという一人の人間が大好きだ。それは一緒に討伐に行って、沢山話をして。積み重ねてきた時間の賜物だ。最初はあんなに嫌いだったのに。
僕は、マリウスと過ごしてきた時間を振り返り、温かい気持ちになった。
「そうだね。ありがとう、マリウス」
マリウスに素直な気持ちを吐き出せば。
「最初は怪しい奴だと警戒していたものだ」
と、いつもの憎まれ口を叩いた。
「なっ、こっちだって!」
僕もすかさず反撃に出る。
そしてお互いに顔を見合わせ、笑った。
「結婚おめでとう、レイン」
優しいマリウスの笑顔から、心から祝福してくれているのが伝わった。
「ありがとう、マリウス」
僕は泣きそうになるのを必死に我慢して、マリウスに笑い返した。
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