第42話 リナの覚悟、レインの決意
「レイン、私と婚約を破棄してください」
「な、に、を言っているの……」
リナに手を伸ばせば、リナはまた一歩下って、僕を拒絶した。
「リナ……?」
いつもと変わらない笑顔なのに、リナが遠い。僕はそう感じていた。
「決めたのか?」
「はい」
アイルの問いかけにリナはきっぱりと答えた。
決めたって!何が!僕に相談も無しに?
そんな想いが一気に駆け上ってきたが、僕はいつだって自分の感情を優先しすぎてきた。今は、彼女の気持ちをきちんと見極めたい。そう思い直し、リナを見つめた。
「私一人の力で、大切な人たちを救えるなら、安いものです」
そう言って笑う彼女を見て、僕はシスターやアン、アイルにマリウスに師団長。色々な人の顔が浮かんだ。
さっきまで『リナを連れて逃げる!』と思っていた自分が恥ずかしくなった。リナがそんなことを望むはずがないのに。それに、この国には僕にとっても大切な人が沢山いる。
だったら、『リナを連れて逃げる』じゃなくて、『リナと一緒に戦う』だ!
「だからレイン、私と婚約破棄して。あなたには幸せになって欲しい」
そう言って笑う彼女に、勝手だった僕が重なる。
「ねえ、リナは僕に、もっと自分を頼って欲しいって言ったよね?それは、僕も同じなんだけど」
「言ったけど……。今は状況が……違うでしょ!」
僕の言葉に、リナが珍しく声を荒げた。
「違わないよ。それに、僕に幸せになって欲しいって何? 勝手に僕の幸せを決めないでくれる?」
「私だって…、レインのことを考えて……!」
さっきまで穏やかだったリナの顔が、険しいものになっていた。突然、死にに行けと言われたのと同じだ。本来なら、平静でいられるはずがない。
「僕の幸せは、リナ、君といることだよ」
「!!」
僕の言葉に、リナの瞳が揺れた。
「私は、レインを巻き込みたくなくて……」
「うん」
僕はそっとリナに歩み寄り、今度こそ彼女を捕まえた。
僕がリナの肩に手を置くと、リナの瞳からはポロポロと涙が溢れてきた。
「せっかく……覚悟、決めて……」
「うん」
僕はリナに頷くと、そっと彼女を抱きしめた。彼女の身体は震えていた。
当たり前だ。聖女である彼女も、ごく普通の女の子なんだから。
「リナ、僕も一緒に行くからね」
「私はっ……、レインに死んでほしくなく、てっ…」
リナは泣きじゃくりながらも、僕の胸の中でポカポカと僕を殴った。
そんなリナの可愛い手を取り、リナの顔を覗き込む。
「だってリナは、聖女の前に」
「僕の婚約者だって言うんでしょ?!」
涙を拭いながら、リナは僕を睨んで、言葉を遮った。そんな彼女を見て、僕は笑みが溢れてしまう。
「ははっ。そうだよ。わかってるなら良いよ」
そう言ってリナを再び抱きしめる。今度はもっと強く。リナの震えも止まっているようだった。
「レインはいつだってずるい……」
リナは僕の胸に顔を埋めて、呟いた。
「僕を置いていこうなんて、許さないよ? リナ、僕は君を一生離す気は無いから」
「はい……」
リナの頬を手で挟み、いたずらっぽく笑ってみせると、リナは少し笑顔になった。
「それに、僕が一緒に行くからにはリナを死なせない。僕を誰だと思っているの?」
「魔法師団の副師団長様な」
抱き合う僕等の横に、アイルがいつの間にか立っていた。
「二人だけの世界に浸っている中悪いが、俺だってリナを一人で行かせる気は無い」
「リナが行くなら、第一部隊も当然一緒ですね」
コホン、と僕たちを見ながらアイルが言うと、これまたいつの間にかアイルの反対側にいたマリウスも続けて言った。
抱き合う僕たちをアイルとマリウスが挟む。
右に左にそれぞれの顔を見た僕とリナは、お互いの視線が絡むと、笑った。
「リナは一人じゃないし、僕が死なせない」
僕の言葉に、リナの瞳に再び涙が溢れたけど、今度は笑顔だった。
「浄化には役立たないけど、周辺の魔物討伐は任せておけ。騎士団をあげて、浄化に集中させてやる」
アイルの頼もしい言葉に、僕とリナも頷いた。
ようやく笑顔になったリナを僕は見つめて、その唇にキスを落とす。
「レイン…! 二人がいるのに……!」
慌てて身体を離したリナにお構いなしに、僕は彼女を抱きしめる。アイルとマリウスは、やれやれ、と後ろを向いて見ないようにしてくれていた。
いつものように顔を真っ赤にしたリナを見つめて、僕は彼女への愛おしい想いを口にした。
「リナ、僕と今すぐ結婚しよう」
「え……」
リナの瞳が驚きで揺れている。
「ちゃんとした結婚式は帰ってからするとして、リナを今すぐ僕の奥さんにしたい」
「レイン……でも……」
死ぬかもしれないのに?
声にならないリナの小さな不安が僕には聞こえた。リナはまだ不安で胸がいっぱいなのだ。
「国を救って帰ってきた聖女を、王族が放っておくとは思えない。僕の物にしておかないと」
僕は俯くリナの顎を取り、彼女の瞳を覗いた。
「レインは絶対に帰ってくるつもりなんだね」
真剣な僕の顔を見たリナが、フッと笑う。
「当たり前だよ。国にも、魔物にも、リナを誰にも譲るつもりは無い」
僕は再びリナにキスをする。リナは、僕の背中に手を回し、ぎゅっとローブを掴んだ。
「リナ、僕の奥さんになってください」
唇を離し、僕はリナの左手を取って、その場に跪いた。
リナの瞳からは涙がとめどなくこぼれ落ちて来ている。でも。
「よろしくお願いします」
僕の手に右手を重ね、リナは微笑みながら答えてくれた。
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