第49話 永遠に誓う

 晴れた空の日。王都にある大きな教会の外には沢山の民衆が集まって、すでに歓声が上がっていた。


「リナ」


 控室のドアをノックして入ると、白いウエディングドレス姿のリナが椅子に座っていた。


「レイン!」

「聖女かっ……!」


 綺麗で眩しいリナに、思わず感動して、目をつぶって言えば。


「だから、私聖女なんですけど」


 リナは頬を膨らませて、笑顔からムスッとした顔に変わった。


「リナが綺麗すぎるって言ってるんだよ」


 隣にいたアンがクスクス笑って言った。


 アンは今日もリナの支度の手伝いに来てくれていた。いつもの見慣れたシスター服じゃなく、綺麗にドレスアップしている。そのドレスの色が赤いのは、あえて突っ込まないけども。


「シスターは?」

「子供たちと教会にいるよ」


 今回、国の救世主となった僕たちの結婚式は、国をあげての大きな物になってしまった。元々、魔術師団の副師団長と国一番の聖女の結婚式だ。形式的な物になるとは思っていたが、今回のことで大事になってしまった。


「大切な人たちを呼べたのは嬉しいけど、こんな綺麗なリナを大勢の目に晒したくないな……」


 はあ、とため息をつけば、リナは笑って、アンは呆れていた。


「レインにーちゃん、器小さい!」

「言っとくけど、マリウスだって独占欲強いと思うからな!」


 アンの言葉にムッとして、僕が反撃すると、アンは顔を赤くした。


 その赤いドレスだってマリウスからだろう。僕に負けないくらい独占欲の塊だ。二人が上手くいっているなら喜ばしいことだけど。


「時間だぞ」


 ノックと共にアイルが騎士団の正装でやって来た。


 今回、リナとヴァージンロードを歩くのはアイルらしい。親父さんから勝ち取って来たと、泣いて喜んでいた。


「幸せになれ」


 リナに目を細めてアイルが言うと、リナも嬉しそうに微笑んだ。


 そして僕たちは、教会に向かい、式を上げた。


 王や新しい宰相、国の偉い人たちが勢ぞろいで、騎士団の警護がされた物々しい雰囲気の式に、僕もリナも緊張したけど、シスターやアン、子供たちが見守ってくれていたので、安心した。


 厳かな空気の中、二度目の結婚式を終えた僕たちが教会の外に出ると、あの日、戦いを終えて帰って来た日以上の人が集まって、祝福をしてくれていた。


 沢山のフラワーシャワーを浴びながら、リナは幸せそうに笑った。


「この国を守れて良かった。私、こんなに沢山の人の笑顔を守れたんだね」

「そうだね」


 こんな時さえも聖女の顔をする彼女が眩しくて。僕の方を向かせたくて。


 僕は皆の前で、リナにキスをした。


「レ、み、こんな沢山の人の前で……!!」


 みるみる真っ赤になるリナの顔を見て、僕は笑ってしまう。


「さっきも皆の前でしたじゃない」

「あれは誓いのキスです!!」

「お前ら、いい加減にしろー」


 皆そっちのけで言い合う僕らにアイルが割って入る。


「何やってるんですか……」


 シスターと子供たちを警護してくれていたマリウスが呆れ顔でやって来た。もちろんアンも隣にいる。二人、お似合いだ。


「レイン、リナ! おめでとう……!」


 シスターが涙を浮かべて僕たちを抱きしめてくれた。


 周りを見渡せば、第一部隊のみんな。一緒に戦ったカール、アシュリー、ワーズ。団長に師団長が僕たちを笑顔で見守ってくれていた。


「こんなに沢山の人に祝福されて、僕たち夫婦になれたんだね」


 ポツリと僕が言えば。


「幸せですね」


 リナが満面の笑みで僕を見た。


「リナをもっと幸せにするよ」

「私もレインを幸せにします!」


 僕の言葉に何とも頼もしい返事が返ってきた。


 リナは凄いなあ。誰かを『愛する』ってこんなにも幸せな気持ちになるんだ。そして、『愛される』というこの上ない喜びも知った。


 リナに出会わなかったら、僕の人生はこんなに色付かなかった。


 嘘から始まった二人だけど。今は本当に心から彼女を愛している。


「リナーーーー!」


 僕が感謝の気持ちを胸に、リナを見つめていると、人気者のリナは、次々に色んな人から呼ばれ、あっという間に沢山の人に囲まれてしまった。


「夫婦になっても大変ですね」


 次々にお祝いに来る人に囲まれたリナを、少し離れた所で見ていると、いつの間にか隣にいたマリウスが皮肉めいて言うので、僕はため息をついた。


「レインにーちゃん、頑張れ!」


 アンが、のほほんと笑って言う。他人事だと思って!


「いやー、結婚してもお前ら変わらないなー」


 これまた隣にいたアイルが遠い目をしながら笑って言った。


「ほらレイン、リナを取り返しに行ってらっしゃい!」


 シスターが珍しく冗談めいて言うので、リナの方を見れば、いつの間にか男たちに囲まれている。


 僕は急いで走り出した。


 後ろでアイルとマリウスとアン、シスターが笑っている。


「リナーー!君、聖女の前に僕の奥さんでしょ!」


 僕は皆に囲まれたリナに向かって大声で叫んだ。


 笑顔で振り向いた彼女の答えは、もちろんーーーー

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君、聖女の前に僕の婚約者でしょ! 海空里和 @kanadesora_eri

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