第18話 これは独占欲ですか
「あー、心配だなあ」
「何がですか?」
あれから数日後。僕はまた彼女の家に通うようになっていた。
いつものように彼女の手料理をご馳走になり、片付けをしている時に、僕はポツリと呟いた。
「だってさ、晴れてちゃんと婚約者になったのにリナが僕の婚約者だって牽制出来ないなんて」
リナに贈った指輪は今はチェーンに通し、彼女の胸元に収まっていた。しかも服で隠れて見えないように。
「牽制って……嬉しいですけど、私もてないから大丈夫ですよ?」
そう言って笑う彼女に、僕はむーっとなる。
彼女は可愛い。そして人を惹きつける。聖女とかそんな肩書に関係なく、彼女の笑顔は綺麗で、見る者を虜にするのだ。
それなのに彼女は自覚が無い。
少なくとも、隊長の彼は彼女に惚れている。
「リナ、こっち来て」
僕は風魔法で食器を乾き終わらせると、まだキッチンで片付けをしていたリナを呼んだ。
「レインさん?」
リビングに来たリナの手を引いて僕は彼女を腕の中に納めた。
「レインさんは心配性ですね」
僕の腕の中で彼女がふふ、と笑うので、彼女を強く抱きしめた。
「……第一部隊の隊長の彼……」
「マリウスですか?」
ほら。僕は彼女がその名前を呼ぶだけで強い嫉妬心に駆られてしまう。
「何で呼び捨てなの……」
「ええ……」
僕が拗ねてそう言えば、彼女は困ったように笑う。
「騎士団は皆名前で呼び合っているんですよ? 彼だけじゃないですよ?」
彼だけじゃない。
僕は騎士団の全員にもれなく嫉妬した。
「僕も……」
「え?」
「僕もレインって呼んで」
「!!!!」
そう言うと彼女は真っ赤になって黙ってしまった。
可愛い。
こんな可愛い顔を見られるのは僕だけだろう。そう思えるくらいの自惚れは最近の僕にはあった。
「リーナ」
名前を呼んで彼女を急かせば、彼女は顔を真っ赤にして僕を見上げた。
「レ………」
「レ?」
「レ、レイン!!!!……さん」
あーーーー可愛い!!
思わず腕の中の彼女をまた強く抱きしめる。
そして何度も口づけをした。
「レ、レインさん……もう……」
蕩けた顔でキスを静止しようとする彼女に僕は意地悪な顔で笑って答える。
「呼び捨てしてくれるまでダーメ」
そして再び彼女の唇を貪ると、
「ずるい……」
と言って彼女が涙目になっていた。
ヤバ……調子に乗りすぎた……?
「リナ……?」
恐る恐る彼女を伺えば、
「………レイン」
彼女は僕の耳元で小さく囁いた。
うわ!!!!
僕自身も顔が真っ赤になるのがわかった。
嬉しい。名前を呼ばれるのがこんなに嬉しいなんて。
「リナ、ありがとう!!」
そう言って彼女を見れば、彼女も幸せそうに笑ってくれた。
そして僕は再び彼女に何度もキスをした。
「僕以外にスキは見せないでね」
何度もキスをしたあと、僕は彼女をようやく開放し、彼女を後ろから抱きしめる形でソファーに座っていた。
「レインさんだけですよ」
「絶対だよ!」
はいはい、とクスクス笑う彼女に僕はムッとする。
あのマリウスとかいう男は絶対に気を付けなければ。もちろんリナのことは信用している。
騎士が無理やり、なんてことも無いだろう。でもあのデートの日、彼は彼女の腕を掴んでいた。
思い出しても腹が立った。
「やっぱり心配だーー」
そしてループするのだった。
「もう、レインさん」
彼女が呆れたように僕を見るので、僕は別の心配が湧き上がる。
「ごめん。嫌いにならないで?」
「え?!ならないですよ!!」
驚いて答える彼女にホッとする。
「これって独占欲かなあ」
そう言って後ろから彼女の頭に僕は顎を乗せた。
「そうですねえ」
彼女はふわりと笑い、
「レインさんに独占されるならこんなに嬉しいことはないです」
と眩しい笑顔で答えた。
「僕をこれ以上喜ばせてどうするの……」
へなへなと彼女の頭から肩に顎を埋める。
「えーー?喜ばせてくれているのはレインさんの方……」
そう言って彼女が振り向けば、顔が至近距離で。
可愛い彼女の顔に思わずまたキスをした。
「ほら……」
離した顔を真っ赤にして彼女は「嬉しい」と笑った。
こんなに可愛い彼女をずっと閉じ込めておきたい。彼女が「聖女を辞めたい」と言えば、僕は喜んで賛成するだろう。エリーズには説教したくせに。
でも彼女はそんなことを言わない。そんな彼女だから僕は愛しているのだということもわかっていた。
「ああ、矛盾……」
人を愛するって面倒くさくて苦しい。
でも凄く幸せだ。
「あーあ、僕も騎士団派遣の仕事、もっと入れようかなあ」
「ええ?」
半分本気だったけど、彼女は冗談だと思っていたようで。
まさか本当に騎士団の仕事を増やすことになるとは、この時の僕は思いもしなかった。
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