第16話 Sideリナ②
アイル様とレインさんは親友だった!!
二人は下積み時代から現場でよく一緒に任務にあたっていたらしい。
二人で飲みにもよく行っていたらしいけど、レインさんが副師団長に就任すると同時くらいに、アイル様も騎士団の副団長に就任した。
「お互い、引き継ぎやら何やらで忙しくて会えてなかったんだよなー」
だから気付けなかったんだ!!!!
今日は騎士団の合同訓練だったので、アイル様を捕まえて、私がたまにお手伝いしている飲み屋にやって来ていた。
「しかし、リナがレインと同じ孤児院出身だったなんて!」
アイル様は孤児院出身なんて気にしないで、私自身に向き合ってくれている。だから『孤児院出身』なんて自然に忘れていたようで。
アイル様はレインさんに対してもそうなんだろうなー。
そう考えていると、二人の仲に嫉妬してしまう。
「……ずるい」
思わずそう言って頬を膨らませれば、アイルさんは嬉しそうに私の頭を撫でた。
「アイツのこと想っている子がいるなんて。しかもそれが、妹のように思っているリナなんて、嬉しい。」
真っ直ぐにそう言われれば、照れてしまう。
アイル様には私がレインさんをずっと想っていたことを力強く語ってしまったのだ。
赤くなった顔を両手で覆っていると、アイル様は閃いたように言った。
「よし! 俺が取り持ってやる!」
「ホントですかっ?」
思いもよらないアイル様からの提案。私は思わず立ち上がって喜んだ。
「アイツ、仕事ばっかりだからなー。女の影なんて一ミリも無いぞ」
それはアイル様もでは……と思ったけど、声には出さなかった。
「親父にも言って、師団長にお見合いの話を進めよう!」
「お、おおおお見合い?!」
急な話の飛躍にびっくりして声が裏返ってしまった。
……コホン。気持ちを落ち着けて椅子に座る。
「まずは私のことを知ってもらってから……」
「だからお見合いするんだろー?」
え、そういうもの?!貴族っていきなりお見合いからなの?
まあ、家同士のお付き合いになる貴族ではそういうものなのか。
そんなことを考えていると、アイル様は悪魔の笑顔で私に意地悪を言ってきた。
「それに、レインは副師団長だからな?早くしないと他のお見合い話が来ちゃうぞ?」
「そ、それは嫌です!!!」
力いっぱい私が答えると、アイル様は「だろ?」と言ってニヤニヤ笑った。
………意地悪。
「まあ、俺と親父に任せとけ」
そう言って胸をドン、と叩いたアイル様に「お願いします」と頭を下げた。
アイル様はそんな私の頭をワシャワシャと撫でて、楽しそうに笑っていた。
お兄さんみたいな存在のアイル様。いつも私のことを考えてくれて有難い。
考えてみれば、元騎士団長様と副団長様の仲介なんて豪華過ぎる。
………レインさん、背が伸びて凄く格好良くなっていた。アイル様と話していたときの穏やかな笑顔は、出会ったあの時と変わらない、優しい笑顔だった。
やっぱり好きだなあ。
そんなレインさんとお見合い?!
夢みたいだ。
アンに報告したかったけど、ちゃんと話が確定してからにしようと思った。
夢心地になりながら私はその日、アイル様と別れた。
それから一週間後、訓練終わりにアイル様が慌てて私の元にやって来た。
「ど、どーしたんですか?」
息を切らして深刻そうな顔のアイル様に私は心配で声をかけた 。
「ごめん……リナ」
アイル様は私に申し訳無さそうに、そしてとても言いにくそうにしていたけど、真っ直ぐに私を見て言った。
「レインが婚約した」
コンヤク…………………
一瞬頭が真っ白になって。
「え……? あれからまだ一週間ですよ??」
どういうこと?すでにレインさんにはそういう話があったってこと?
パニックになる私にアイル様の顔は浮かないままだ。
「とりあえず、場所を変えようか」
◇◇◇
「親父から師団長に、レインと聖女との見合い話を打診していたんだ」
いつもの飲み屋に二人で来てアイル様から事の成り行きを聞いている私は、未だにショックで頭が真っ白だ。
「リナの名前を出していなかったのが仇になった」
「どういうことですか?」
アイル様はあの話を本当に進めようとしてくれていた。でも。
「シュクレンダ家が急に割り込んできた」
……シュクレンダ家。れっきとした男爵家だ。確か第四師団に聖女をしているご令嬢がいた。
「いつの間にか宰相、師団長を巻き込んで、リナではなく、シュクレンダ家のご令嬢が見合い相手にすり替わっていた」
アイル様は机の上のビールを一気に飲み干し、机の上に勢いよく置いた。
「俺は、レインにも反対したんだ!!でも、もう話がまとまっていて、どうにも出来なかった」
レインさんは悔しそうに言った。
それが私のために怒っていてくれているのもわかったので嬉しかった。そして副団長という立ち場のある人が私のために個人的な意見を通せないこともわかっていた。
「アイル様、私のためにありがとうございました」
「リナ……?」
私は努めて明るく振る舞うようにアイル様に言った。
「私、一瞬でも夢を見られて嬉しかったです。レインさんが幸せなら……私はそれで良いんです」
嘘ではなかった。
そりゃあ私が隣にいられる未来なら良いとは思うよ?でも、男爵家のご令嬢と孤児院出身の私。同じ聖女なら、そりゃあご令嬢の方がレインさんのために良い。
私があの笑顔を守りたかったけど。
どうか幸せに。隣にいるのが私じゃなくて悲しいけど。
「俺はレインと合わなそうな女だと思ったけどな」
アイル様、酔っ払ってるな。
「アイツが不幸になることがあれば、リナが奪っちゃえよ」
「そんなことにはなりませんよ」
酔っぱらいの戯言だな〜と思いながらも、「リナならアイツを幸せに出来た」と呟くアイル様に胸が熱くなった。
「……ありがとうございます」
それから私もビールを飲み干し、その日は泣いた。
まさか三ヶ月後にアイル様が言った通りになるとは思わずに。
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