第15話 Sideリナ①

「リナ、お願い!! 明日、お店に入ってくれない?」


 レインさんに結婚を申し込まれた日、店長に代打を頼まれたのは本当に偶然だった。


「いいですよー。明日は討伐も無くて、訓練だけですから」


 その日に起こることなんて知らずに、私はいつも通りに過ごしていた。


◇◇◇


 私は三年前、城下町の飲み屋で働いていた所、偶然そこに飲みに来ていた騎士様を助けて、自分には癒しの力があることを知った。


 助けた騎士様は何と、王立騎士団の騎士団長様で。


 私は聖女として騎士団にスカウトされ、力の使い方や訓練等をその人に教わった。


 多くの聖女は貴族のご令嬢から輩出されるため、みんな小さいうちに能力を見出され、訓練を受けている。


 私みたいに大きくなってから見つかるのは珍しいみたい。自分自身も気付かなかったので、びっくりした。


 団長様には息子さんがいて、アイル様という。

 その人も私の面倒をよく見てくれ、騎士団のことを教えてくれた。二人とも貴族なのに孤児院出の私を関係なく可愛がってくれた。お父さんとお兄さんのような存在だ。


 訓練を重ねると、やっと聖女として現場に出ることを認められた。


 私はやっと、憧れのレインさんと働ける!と思ったら、彼は丁度、魔術師団の副師団長に就任してしまった。


「うう……また遠くに行っちゃった」

「レインにーちゃん、随分偉くなったんだねえ」


 私のお姉さんの様な存在のアン。

 私たちがいた孤児院のシスター見習いとして働いていた彼女には、よく話を聞いてもらっていた。


「でも、聖女業のおかげで、飲み屋の稼ぎよりも孤児院にいっぱいお金送れるよ! レインさんに一歩近づけたよね!」

「リナは充分偉いけどなあ。まあ、にーちゃんに会えると良いね!」

「うん!もっと立派になって、必ず会いに行くの!」


 この頃は憧れの方が強かったかもしれない。


 レインさんは孤児院みんなのヒーローで。

私が孤児院に来た時には、入れ違いで魔術学園に行ってしまい、顔も知らなかった。

 でも、シスターから沢山話を聞いて、レインさんは私の憧れになっていった。


 そして、レインさんは魔術師になり、初めてのお給金を持って孤児院にやって来た。


 黒い髪に黒い瞳。皆に向けるその優しい顔に、私は恋に落ちた。


 私はお話し出来なかったけど、頭を撫でてもらった。……みんなと同じに。


 それからレインさんは毎月孤児院に仕送りをしてくれたけど、顔を見せることは無かった。


「きっと忙しいのね。元気にやっていれば何よりだわ」


 時々届く手紙を見てシスターは微笑んでいた。

 

 私も大きくなったらここを出て、働いたお金を孤児院に送ろう!と決めていた。


 そしてシスター仕込みの料理の腕を買われ、私は王都の城下町で雇って貰えることになった。


 それからは必死に働いて、お給金の一部を孤児院に届けていた。


 孤児院への恩返しの気持ちはもちろんあったけど、私はレインさんのことを忘れられずにいた。


 だから、続けていればいつか孤児院で再会出来るんじゃないかって。その時には誇れる自分でいたいって。


 そう思っていた。


「不純だよねえ……」


 私がそう言えば、シスターもアンも、「それで良いのよ」と言ってくれた。


 二人にはレインさんカッコ良かったとか、好き、とか、つい話してしまうので恥ずかしい。


 だから、私に聖女の力があると知ったとき、凄く嬉しかった。レインさんに一歩近づけたって。


 騎士団は実力主義のため、騎士から蔑まれることは無かったけど、他のご令嬢聖女からは悪く言われているのは知っていた。


 でもそれさえも、レインさんのことを想えば、気にしないで頑張れた。

 

 レインさんもこんな思いをしながら、副師団長まで登り詰めたのかな、と思うと、益々レインさんへの想いが募った。


 それから順調に魔物討伐をこなし、私は更に力を高めていった。


 聖女業を疎かにしないため、飲み屋の仕事は辞めたけど、たまに手伝わせてもらうことにしていた。


 お世話になったお店は居心地が良くて、息抜きにもなった。それに料理するの好きだしね!


 賄いをもらえて、節約出来る分、孤児院に回せるのもありがたかった。


 住む場所も、聖女様はご令嬢が多いため、お屋敷から通っているので、女性寮は無く、私もこのままのアパートに住んでいたかったため、移り住む必要も無く、楽だった。


 そうして一年前、力をつけた私は、エリート部隊と呼ばれる第一部隊に配属された。


 その頃には、癒しの力も聖女一高かったらしく、王城に呼ばれることも多かった。


 騎士団と魔術師団は王城の左右にあり、所謂交わる地点なので、私はレインさんといつかすれ違うんじゃないかとドキドキしたけど、結局、一度も出会うことは無かった。


 副師団長様は研究で研究室に籠もることが多く、お顔を見られるのは彼に教えを請える師団の魔術師くらいだった。


「あーあ、私も魔術師の才能があったら良かったのになあ」


 聖女として働いてきた間、レインさんが派遣されて来ることは無かった。第一部隊なら尚更だ。


 そんな時。神様の導き?!ってことが起こった。

 

 灯台下暗し!!!!


 ある日私は、アイル様とレインさんが一緒にいる所を目撃した。

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