第14話 想いを届けて

 僕はシスターとアンにお礼を言って、孤児院を飛び出した。


 ここまでは、商隊の馬車に村の近くまで乗せてもらい、後は歩いて来た。時間もあるし、とのんびり来たのが仇になった。


 乗せてもらえそうな馬車も無い。


 ーー転移魔法しか。


 何度か繰り返せば王都に辿り着くだろう。僕の魔力なら出来る!!


 僕は急いで転移魔法を発動させた。


 二、三回繰り返せば、王都の城下町に着いた。


 僕は急いで宝石店に向かった。

 魔力を使いすぎて汗が止まらない。でも足を止めるわけにはいかない。


 そうして僕は指輪を受け取り、急いで騎士団に向かった。


 アイルが入口で話しているのを見かけて、声をかける。


「アイル……!!」

「レイン? どうした? 顔色が悪いぞ」


 ゼエゼエ言いながらも息を整える。


「リナは?」

「え?」

「リナはどこだっ!!」


 アイルは一瞬驚いた顔をして、やれやれ、と言う顔をして答えた。


「魔術師団に向かったよ」


 その答えに、まさか、と思う。


「お前に会いに行ったよ」


 僕の心の中の問いにアイルは答えると、


「後で説明しろよ」


 と言って僕を送り出してくれた。


 ありがとう、と言い、僕は魔術師団に向かって走り出した。


 あと少しで彼女に会える。


 僕はこんなにも沢山の人に背中を押されないと動けない、ダメな男だけど。


 僕を諦めないで。


 リナじゃないとダメなんだ。


 待っていて欲しい。


 副師団長になってからは研究ばかりで。

 僕は恐ろしく体力が落ちていた。


 それでも力を振り絞って魔術師団まで走った。


 魔術師団まで辿り着く。

 リナはどこだ?


 建物内を息を切らして走る僕は、団員たちから何事だ?という目で見られていたが、なりふりかまってはいられなかった。


 リナは僕に会いに来てくれているはず。

 ………僕の研究室か……!!


 急いで階段を駆け上がり、僕は研究室に向かう。


 まさに今、リナが研究室の入口をノックしようとしている時だった。


 僕は彼女の手を強引に掴み、急いで研究室の中に入った。


「レ……レインさん?」


 驚いた彼女が僕を見上げていた。


 久しぶりに見る彼女の顔に泣きそうになった。

 僕は何とか息を整えて彼女に向かう。


 「ごめん、僕はリナにずっと嘘をついていた。自分が傷付いたからって、リナには関係無いのに」


 リナは僕の目をじっと見つめて聞いてくれていた。そんなリナに僕はまとまらないなりに、この想いを伝えようと必死に言葉にする。


「シスターとアンに会ったんだ。リナはずっと僕のことを想ってくれていたんだね」

「えっ……」


 リナの顔が赤くなる。そんな態度にひどくホッとする自分がいる。


「リナ、酷いことを言って本当にごめん。今更だけど、僕にやり直すチャンスが欲しい。」


 僕はリナの手をギュッと握り、目をしっかりと見つめた。


「僕は、魔術師団副師団長のレイン・アーシュターです。リナ、僕と結婚を前提にお付き合いしてください」


 そしてポケットに入れていた指輪の箱を開けてみせた。


 そこにはリナが選んでくれた、ブラックダイヤモンドがはめ込まれたシンプルな婚約指輪。


 恐る恐るリナを見れば、リナは俯いて動かなかった。


 今更、だよな。あんなに酷いことを言った僕を許せるはずが無い。


 彼女に捨てられても仕方ない。

 そう思っていると、彼女がぐい、と僕に袋を差し出した。


「?」


 不思議に思い、その中身を見れば、先日の討伐でアイルに渡したアイテムが入っていた。


「使えないそうです」

「え?」


 そう言うと彼女はアイテムのスイッチを押した。


 流れる映像は最初は討伐の様子を映していたものの、途中からは彼女の姿ばかりを映していた。


「レインさんの見たもの、聞いたものを再現するんですよね?!」


 怒ったような声の彼女だが、顔を見ると真っ赤に染まっていた。


 その意味を理解し、僕の顔も赤くなる。


「リナ……」


 僕が彼女に手を伸ばした、その時ーーーー


 彼女が僕の胸に飛び込んできた。


「リナ?!」

「それを見たら、レインさんが私のことどんなに好きかわかります」


 真っ赤になりながら僕の胸で彼女が言うので、僕は思わず抱きしめた。


「嫌じゃない?」


 恐る恐る聞けば、


「嫌じゃないです」


 と返ってきて、ホッとする。


「それに」

「……?」

「やっと、名前呼んでくれました」


 僕を見上げ、笑う彼女の目には涙が光っていた。


 あの討伐の日、僕が酷いことを言った日。僕はリナを『君』呼ばわりしていた。

 そのことに彼女は傷付いていたのだ。


 僕は胸が締め付けられた。


「リナ……。リナ。リナ、リナ……」


 何度も名前を呼んで彼女を抱きしめた。


 こんなことで喜んでくれる彼女を今度こそ大切にしたい。


「僕と結婚してください」


 今度は真剣に。心からの気持ちで。


「はい。よろしくお願いします」


 あの日と変わらない笑顔と答えで、彼女は僕を見つめた。


 そんな彼女に僕も笑顔を返し、左手の薬指に指輪をはめた。


 そして、彼女の顔に近づき、口づけを落とそうとしようとした時ーーーー


 僕は目を回して倒れた。


 魔力の消費と全力ダッシュ、それに加えて彼女を再び捕まえられた安堵で、意識を手放してしまった。情けない。


「レ、レインさーーーん!!」


 焦る彼女の声が遠くに聞こえた。

 

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