第39話 裏切り
ニ年目の新人魔術師、ノーマン。僕の研究に瞳を輝かせて協力してくれた彼が……。
僕は魔術師団の中に裏切り者がいたのがショックで、しばらくその場に立ちつくしていた。
リナは何も言わず、僕が戻ってくるまで手を握って待ってくれていた。
そしてようやく落ち着いた僕は、ポツリポツリとリナに説明をした。
リナも驚いて、悲しそうな顔をした。
「今日は遅いから、明日の朝一で師団長に報告しよう」
そうして僕たちは、手を繋いで魔術師団に帰って行った。
◇◇◇
「妹が病気で、お金が必要だったんです……!申し訳ございませんでした!!」
翌朝、師団長に報告した僕とリナは、そのままノーマンの事情聴取に立ち会っていた。
宰相に話を持ちかけられたノーマンは、お金に目がくらみ、討伐後に魔法弾を持ち出し、犯行に加わった。
リナの行動パターンや討伐の日程は全てノーマンから情報が漏れ、あの日の誘拐事件は計画された。
「まさか身内から情報が漏れるなんて……」
師団長はため息をつきながら、頭を抱えていた。
ノーマンのしたことは魔術師団を除籍されるだけでは済まないだろう。病気の妹さんのことを思えば、気の毒だけれど。
事情聴取を終えたノーマンを、同席していた騎士団に引き渡すと、部屋には師団長と三人になった。
「で? 今度は宰相に「知らない」とは言わせないよな?」
裏切り者をあぶり出した僕たちの能力を知った師団長は、僕を挑戦的な目で見てきた。
「もちろんです。ついでに薬を持ち出した証拠も押さえますよ。」
僕はその目に応えるように自信たっぷりに答えた。
「薬室に入る許可はすぐに取ってやる。で? リナは何でそんなに赤い顔をしてるんだ?」
師団長の言葉に、隣にいたリナを見れば、確かに顔を赤くしていた。
「リナ?」
リナを覗き込めば、リナは耳打ちでこっそりと僕に聞く。
「今度こそ、人前では使わないですよね?」
ああ!と思い、リナに頷くと、リナは安心した顔を見せた。
そんな僕たちを見ていた師団長は、ニヤニヤしながら言った。
「お前たちの力を融合してレインの能力が高まったと聞いたときは驚いたが、一体どんな方法なんだか?」
師団長には僕たちの力を合わせて過去を見られるようになった、としか説明していない。どうやって、の説明はリナから反対されたのだ。
「一般的に広まれば良いと思ったが、それは無理そうだな」
色々悟った師団長が、僕たちをからかうように言うので、リナの顔はますます真っ赤になっていった。
それから。僕たちは師団長が許可を取ってくれた薬室、事情聴取で聞いた、ノーマンが宰相に話を持ちかけられた場所を順番に巡って証拠集めをした。
王宮内で力を持っている宰相は、足がつかないと思っているのか、自ら動いていてくれて助かる。
しかし、自分の息子とリナを結婚させるためにここまでのことをする意味がわからない。
そんな違和感が気持ち悪い。
「レイン、大丈夫?」
考え込んでいた僕を、リナが心配そうに見つめていた。
「魔法、使いすぎじゃない? 大丈夫?」
「ありがとう。大丈夫だよ。リナこそ平気?」
「私も平気だよ」
リナの笑顔に、僕も笑顔になる。
「じゃあ、ここが最後だからやっちゃいますか」
僕の言葉にリナの顔が赤くなる。その顔を見て、証拠集めのためとは言え、事務的にキスするのは嫌だなあ、と思っていた僕の思いは吹っ飛ぶ。
証拠集めでも何でも、リナとキスをするのは心地よい。リナの癒しの力が僕に流れ込んでくる瞬間も温かくて。
「二人の愛の形が力になって嬉しいなあ」
思わず言葉にすれば、リナの顔はまた赤くなって。下を向いたかと思えば、パッと顔を上げ、僕を見つめた。
「私も嬉しい」
ああ!!幸せだなあ。
僕はリナを愛しく見つめる。リナも優しく見つめてくれていた。
僕は口付けを落とし、リナは癒しの力を発動させた。
何度かやったこの工程も、全てが愛おしい。
「これでようやく結婚出来るね」
僕はリナを抱きしめた。リナも僕の腕の中で頷いてくれていた。
宰相さえ捕まれば、この問題も解決する。その時は僕もリナも、そう信じていた。
宰相がどうしてリナと息子を結婚させようとしていたのか、その理由がとんでもないことだとも知らずに。
これからはこの幸せを誰にも邪魔されずに暮らしていける。僕はそう思ってリナを抱きしめていた。
そして僕たちは集めた証拠を手に、再び師団長の元に向かった。
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