第38話 共同作業
リナの癒しの力を受けているときに、僕は過去の映像を見た。無意識だったけど、これを意識的にやれば、その物から、過去の見たい映像が見られるのではないか。
「つまり、リナの癒しの力と僕の時魔法が融合すると、過去を見られるんじゃないかな?」
僕の説明にリナは驚いていた。
「そんなことってあるんですか?」
「僕も驚いたけど…ね。」
それから、僕たちはもう一度実験してみることにした。
リナは僕に癒しの力を使う。それを確認して僕は時魔法を発動させる。
ベッドのマットレスに手を置いて、あの出会いの日を思い浮かべる。
「……?」
何も見えない。
「どうですか?」
「何も見えない……」
「うーん、やっぱり偶然じゃないですか?」
リナは癒しの力を止めて、うーん、と考え込んでいた。
いや。あんな鮮明な映像。しかも過去の。時魔法の力が増幅したとしか……。
僕はあの時の状況をもう一度整理してみる。
あの時はーー
「リナ」
僕が呼ぶと、考え込んでいたリナが顔を上げた。すかさず僕はキスをする。
「む……??」
いきなりキスをされたリナは驚いて、身を捩らせていた。そんなリナを抱きしめ、もう一度時魔法を発動させ、マットレスに触れる。
何も見えない。
「もう! 真剣に考えてるのに!」
リナを開放すると、怒られてしまった。
「あ、そうか」
リナの顔を見て閃く。
「リナ、もう一度、癒しの力を使って? 途中でやめちゃダメだよ?」
リナはジト目で僕を見ながらも、「何するか予想は出来る……」と言って、諦めた顔で癒しの力を発動させてくれた。
そんな可愛いリナの頬を僕は絡め取り、キスをする。そして、時魔法発動ーー。
『あ、起きました? 私の婚約者さん』
『こ、婚約者……?』
あの時の映像がマットレスを触れることで頭に流れてきた。
意図的に時魔法を発動させたことにより、見たい映像が見られるようだった。
懐かしい記憶が映像として流れ、僕は恥ずかしくなる。
うわー……あの頃の僕、最低じゃん。
そんな反省をしていると、リナがジタジタしだして、僕は慌ててリナを開放する。
「見れました??」
顔を真っ赤にして涙目で僕を睨むリナがまた可愛い。困る。
「うーん、やっぱり、リナの癒しの力、僕の時魔法、そしてキスをすること、が融合する条件みたいだね」
三本の指を順番に立てながら、僕はリナに説明をすると、リナは顔を真っ赤にしながら言った。
「キ、キキキスって……もしかして、見たい所全部見る間??」
「どうやら、そうみたいだねー」
空中に目をやり、僕がこの力について考えていると、リナは顔を真っ赤にしてワナワナと震えていた。
「リナ?」
僕はぎょっとしてリナを見ると、リナはまた涙目で僕を見上げた。
「人前ではやらないですよね……?」
うーん、可愛い。でも、ごめん、リナ。
「うん、一つは人払い出来るけど、もう一つは町中なんだよね」
「!!!!」
僕がそう言えば、リナはますます目に涙を溜めて。
「む、無理です〜〜」
ぴゃっとまるで猫のように、リナは積んであるダンボールの影に隠れてしまった。
また意地悪しすぎたようだ。
「完全には無理だけど、夜に行けば、人は少ないよ?」
そんな僕の提案に、リナはダンボールからそろりと顔を出す。
「僕たちの結婚のために、協力して?」
「!!」
僕が首を傾けてお願いすれば、リナは真っ赤にした顔を渋々縦に振った。
「やっぱり、今日のレインは意地悪だ」
ダンボールの影で縮こまって座るリナの元に僕は歩み寄り、「ごめんね?」と言って抱きしめた。リナは「ずるい……許しますけど」と言って僕の胸に顔を埋めた。
◇◇◇
「うん、昼よりは人が少ないね」
リナの荷物を魔術師団に送る手配をして、僕たちはアパートを引き払ってきた。
その足で、リナが誘拐された時に足取りが消えた噴水広場まで僕たちは来ていた。
噴水の周りには、それを囲むように数組のカップルが石垣に腰を下ろし、思い思いに話をしていた。
「むしろ夜中に来た方が良かったのでは……」
リナは隣で涙目になりながら僕を見ていた。
「うーん、夜中だと危ないし、明日も仕事だからね? 僕の睡眠、減っちゃうよ?」
そう言えば、リナは困った顔をして噴水に目をやった。
「レイン、ずるい……」
「まあ、みんな自分たちに夢中で僕たちなんて見てないよ」
そう言ってリナの手を引いて、噴水の方まで歩いて行く。
リナのためにも、なるべく人が少ない場所を選び、石垣にリナを座らせた。
僕も座ろうかと思ったけど、リナがあんまりにも恥ずかしそうにしているので、さすがに可哀想になってきた。
僕はリナの正面に立ち、覆いかぶされようにキスをした。これなら周りから見えにくいだろう。
僕のキスを受けて、リナも癒しの力を発動させる。それを確認した僕は、時魔法を発動させ、噴水の石垣に触れた。
あの日、リナが攫われた日、馬車が通った時間ーーーー
そう念じると、僕の頭にあの日の映像が流れてくる。成功だ。
リナを乗せたとされる馬車は、この広場まで来ると、停車した。振り返る人もいれば、気にせず歩いている人もいる。
すると、馬車から一人の男が出てきた。
空から俯瞰して見るようなイメージの映像で、男が誰かまでは見えない。
男は何か筒のような物を取り出し、液体と一緒に魔力を込めだした。
僕はその男の動作に、全身の血がざわめいた。
だって。あれは、僕が開発した魔法弾だ!
男は水魔法を込めたらしく、噴水の真上を狙うように撃った。
そして馬車の車輪に魔法をかけて、急いで乗り込んだ。
撃ち込まれた魔法は弾け、その場にいた人たちに薬入の水が雨のように注いだ。
攻撃で無いとはいえ、一般人に向かって僕の魔法弾が使われたことに僕は腹が立った。
これも宰相が、裏にいるからなのだろうか?魔法弾は魔術師団で厳重に管理されているはずだ。
怒りで頭が支配されたが、僕は唇にリナの温もりを感じ、落ち着く。
リナを見れば、プルプルしながらも癒しの力を継続させていた。
リナ、ごめん。もう少しーー
馬車がエリーズの屋敷の方向に走り去る映像を見て、僕は巻き戻すイメージをする。
馬車は巻き戻り、男が出てきた所まで戻すことが出来た。
今度はズームするイメージで。その男が誰かを確かめる。
僕のイメージ通り、空から視点がズームされ、男の顔がくっきりと見える。
そこで思わず僕は、リナから身体を離してしまった。
息を切らせながらも、リナの瞳は不思議そうに揺れていたけど、僕はリナに声をかけることも出来ずに、その場に立ちつくしてしまった。
だって、その男は、ノーマンだったのだから。
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