第37話 つかの間の

「リナ、この辺はどうする?」

「あ、そのダンボールにお願いします」


 リナが退院をした翌日、僕たちは休みをもらってリナのアパートの片付けにやって来ていた。


 師団長の判断で、リナは今用意してもらっている魔術師団の一室にそのまま住むことになった。


 どのみち、この一件が落ち着けば、僕たちは結婚して新しく住む所を探す。だからリナのアパートは引き払うことにしたのだ。


「早く一緒に住みたいなあ」


 僕は棚の食器を割れないように梱包しながらダンボールに詰めていく。


 思えば、ここから彼女と始まったのだ。感慨深い想いに、僕は願望が口から漏れた。


「そうですね。私も早くレインと家族になりたいな」


 ふふ、と言って笑う彼女が可愛すぎて、本当に勘弁して欲しい。


「あー! 抱きしめたい!」


 素直な感情を吐き出せば、彼女はクスクスと笑って答えた。


「片付けが終わってからね?」


 そう言って傾けた顔が可愛すぎる。


 え?片付け終わるまでって、拷問ですか?まあ、頑張るけども。


「リナ」


 僕は片付けの手を止めて、キッチンを拭いているリナの後ろに立った。


 呼ばれて振り向いたエプロン姿の彼女が眩しすぎる。


 キッチンのシンクに両手を置き、僕はリナを囲い込む。


「レイン? 片付けが終わってからって…」


 急に近付いて来た僕に、リナの顔が赤くなる。


 僕たちは何度もキスもハグもしてきたのに、可愛すぎる。


「一緒に住んだら、いちいち断らないから、覚悟してね?」


 僕はリナの耳元で囁いた。リナの顔が益々真っ赤に染まっていく。


 リナが可愛すぎて、僕はリナの耳にチュッ、とキスをした。


「!! 今も断ってなくない?」


 耳を押さえて顔を真っ赤にしているリナに満足して、僕はするりとリナを開放した。


「それもそうか。じゃあ、許可を得たので、片付け終えたら思いっきり抱きしめるからね?」

「……いじわる」


 いたずらっぽく笑った僕にリナが口をパクパクさせながら言った。


 あー、可愛い!


 こんな可愛いリナを誰にもやるもんか!


 僕は改めて心に誓い、リナを抱きしめるために片付けに勤しんだ。



「……こんなものかな?」


 片付けと掃除が終わった部屋を、僕はリナとぐるりと見回す。


「手伝ってくれてありがとう」

「いえいえ。じゃあ……」


 お礼を言ったリナを、僕は早速手繰り寄せる。リナも、あ、という顔をして真っ赤になった。


 リナのエプロンをハラリと解き、僕はリナを抱きしめた。


「あ、あの……」


 リナが恥ずかしそうに僕を見るので、僕はまたいじわるな顔で答えた。


「ごめん。でもエプロン汚れてたからね?」

「あ……」


 汚れたエプロンに目をやり、リナは顔を手で覆った。


「リナ、何考えてたの? やーらし」


 耳元でそう囁やけば、リナは益々顔を覆って、そ僕の胸に埋めた。


「今日のレイン、いじわるです!!」


 リナが真っ赤になりながら涙目で言う姿が、また可愛すぎた。……でもやりすぎたかな?


 そう思って、リナの顔の手をどかせる。


「リナ、ごめんね? 僕、リナとの結婚を想像して浮かれすぎたみたいだ」


 しゅんとした顔でリナの顔を見れば、リナは、もう、と頬を膨らませて。


「なら、許します」


 と言った。可愛い。


 幸せだなあ。そう思っていると、突然僕はまたクラリとする感覚に襲われた。


 一瞬、リナに体重をかけてしまい、リナも心配そうに覗き込んだ。


「リナ、ごめん。僕また無理したみたいだ。癒しの力をお願いしていい?」

「ここに座って!」


 僕の言葉に、リナは瞬時にベッドの上を指さした。


 この連日、また第一部隊に参加するために、師団長が調整してくれたものの、仕事は減るわけでもなくて。


 無理をしても良いけど、体調の変化はすぐにリナに報告すること。あの日、あの病室で僕は四人と約束をした。


 ベッドに座った僕を確認して、リナは癒しの力を発動させる。その顔はいやに嬉しそうだ。


「何か、嬉しそう?」


 そう僕がリナに聞けば、リナは笑顔で僕を見て。


「だって、ちゃんとレインが私を頼ってくれたから」


 その嬉しそうな顔に、愛しさが込み上げてくる。


 力を使っている最中なのに、僕はリナの腕を掴み、膝の上に座らせた。


「レイン??」


 驚きながらもその力を止めないリナ。


「流石、国一番の聖女」


 僕はフッと笑って、リナに口付けをした。


「まだ治療中で……しょ……」


 唇を離した隙に、リナが怒ろうとしたので、僕は再びリナの口を塞いだ。


 それでも力を止めない彼女に凄いな、と思いつつ、僕のいたずら心が働いて。


 僕の膝の上から隣にリナを下ろすと、マットレスだけになったベッドの上に、キスをしたままリナを押し倒した。


 リナも意地悪な僕に負けまいと、キッと涙目で睨みながら、癒しの力を止めない。


 ああ、可愛いすぎるーーーー


 僕が色々とヤバいので、この辺にしておくか。


 そう思って、手をマットレスに置くと、いきなり僕の頭に断片的な映像が流れてきた。


『あ、起きました? 私の婚約者さん』


 あの日の朝の映像が鮮明に。


 これってーー?


 リナから身体を離した僕は、自分の手を見ながら頭の中に立った仮説に考え込む。


「レイン?」


 突然ほおけている僕を見て、リナは心配そうに身体を起こした。


「リナ、もしかしたら僕たちで証拠が掴めるかも……!」


 僕はリナの両肩を掴んで言った。


 リナは何のこと?というぽかんとした顔で僕を見つめていた。


 その顔がまた可愛かった、というのは僕だけのお話。

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