第40話 議会
証拠の過去映像をアイテムに落とし込み、僕たちは師団長に託した。
宰相に逃げられないように、直ぐに議会を開く準備を騎士団団長や師団長が王に根回ししてくれていた。
この証拠があれば宰相は失脚するだろう。
僕たちは議会が終わるまで待ちたかったが、魔物の討伐があるため第一部隊に向かった。
「討伐後に全部終わっていると良いですね」
マリウスにも協力してもらっているため、僕が報告をすると、そんな言葉が返ってきた。
「そうだと良いんたけどなあ」
「何か気になることでも?」
浮かない顔の僕に、マリウスは親身に話を聞いてくれている。ほんと、良い奴!
「リナと息子との結婚に固執していた宰相の真意がわからなくて……」
「リナが可愛いからでしょう」
僕はマリウスの言葉に目を丸くした。
「……そこは笑う所でしょう」
コホン、と恥ずかしそうにマリウスが言うので、僕は思わず吹き出した。
「マリウスって、そんな冗談言う奴だっけ??」
お腹を抱えて笑う僕に、マリウスは照れくさそうに微笑んだ。
あ、と思った。
暗い顔の僕を励まそうとマリウスはこんなことを言ったんだと。
前までの僕なら、きっとこんな考えに至らなかった。
リナと出会って、僕の世界は変わった。
そんな僕の人生が愛おしく思えて、胸がジワジワと温かくなるのを感じた。
「マリウス、ありがとう」
心から。本当にありがとう。
僕は笑顔でマリウスに言った。
「気持ち悪いですよ」
照れくさそうな顔をしながらも、いつものマリウス全開で言うので、僕はますます笑顔になった。
わからないことを考えていても仕方ないか!
マリウスのおかげで吹っ切れた僕は、考えるのをやめて、討伐に専念することにした。
その日の討伐は順調で。
相変わらず統制の取れた第一部隊の動きで、魔物を追い詰め、導入された魔法弾を魔術師が使い、一掃する。そしてリナの浄化。
リナを守るのは、何と、僕!
マリウスから配置を聞かされた時は驚いたけど、僕にリナを守らせてくれて本当に感謝だ。
浄化の力を使うリナから、金色の光が舞い上がる。綺麗だ。
ふと、浄化の力も、僕たちの融合で強化されるんじゃないかな?と思ったけど、それを試すとリナが怒りそうだなと思って、我慢した。
そうして、その日は魔物が復活することも無く、無事に討伐は終えた。
討伐を終えた僕たちが王都に帰ると、すっかり暗くなっていた。朝からの議会もとっくに終わっているだろう。
すると、騎士団の入口でアイルが僕たちを待っていた。
「アイル!」
僕が駆け寄ると、アイルは浮かない顔をしていた。嫌な予感がする。
「宰相を追求出来なかった……?」
「いや、宰相は拘束されたよ。今、騎士団預りになっている」
「じゃあ、何でそんな顔……」
「リナは?」
僕とアイルが話をしていると、マリウスが後ろで隊員に声をかけているのが聞こえた。
リナがいない?慌てて僕がマリウスの方を振り返れば。
「リナなら、団長室だ。心配ない」
後ろから、アイルの暗い声がした。
いつもおちゃらけているアイルが珍しい。
「アイル? 何かあったのか?」
アイルに向き直り、僕は不安を滲ませて聞いた。
とりあえず、僕たちは、第一部隊の休憩室に向かうことにし、休憩室に着くと、お互いに椅子に腰掛けた。
手招きして誘ったマリウスも一緒に来たが、彼は僕たちの横に立っていた。
ふう、と意を決したようにアイルが僕の顔を見た。
「いいか? 落ち着いて聞けよ?」
アイル自身にも言い聞かせているような言い方だ。僕はそんなアイルに、さっきから心が落ち着かない。どうしたって嫌な話に決まっている。
「魔物が復活する原因を突き止めた」
「本当ですか?!」
アイルの言葉にマリウスが反応する。
それだけなら良い話だけど、アイルを見るに、違うのだろう。
「国境近くの森に、瘴気が色濃く渦巻く場所を第三部隊が見つけた。そこからは魔物がジワジワと生み出され、その瘴気も徐々に広がっているようだった」
その影響で、倒した魔物も復活しているのか。
でもこの前はそんなこと無かった。
「聖女が浄化中にその瘴気に取り込まれた瞬間、侵食が止まったらしい」
「!」
その聖女はどうなったのか、そう聞きたかったが、僕は怖くて聞けなかった。
「それで……」
そこまで言うと、アイルの顔は何だか今にも泣き出しそうだった。
「そこにリナが派遣されることが決まった」
僕の嫌な予感はいつだって的中する。
アイルの言葉に、僕の思考はしばらく停止した。
「宰相の罪を暴く議会で、どうして……」
ようやく絞り出した言葉にアイルも辛そうな顔をしている。
「国を救う策だと、宰相が進めていたらしい」
「何で、犯罪者の策が通るんだよ!!」
僕はつい声を荒らげてしまった。
これは単純に聖女が浄化をしに行く話ではない。聖女を人身御供にしようという話だ。
そんなことはアイルもとっくにわかっていて。
悔しさを滲ませながら、何も答えなかった。
「国民全員の命のために、聖女一人の犠牲を取ったということですか」
「……そうだ」
マリウスの言った言葉にアイルが頷く。
的確にまとめているけど、とても非情な話だ。
「……国一番の聖女を犠牲にする方が国の将来のためにならないと思うけど?」
「それでも、今の魔物の大量発生の異常事態を何とかしたい、というのが国の答えだ」
僕の問いに、アイルの声も荒くなる。
「本当にリナ一人を犠牲にすれば解決すると思ってるの?」
「俺だって!! リナを……妹を、犠牲にしたいと思っていない!」
アイルは立ち上がって、僕のローブを掴んだ。そして、僕の顔を見て、再び泣きそうな顔で直ぐにローブを手放した。
「……国の決定なんだ」
どうしようも出来ない。アイルの表情からはそう読み取れた。
マリウスも暗い顔で俯いている。国の決定事項を覆すことなんて出来ない。でも。
「ねえ、宰相には面会出来るの?」
僕の問いかけにアイルは驚いたけど、「何とか出来る」と頷いた。
僕は僕の出来ることをする。リナをみすみす、死にに行かせなんてしない!
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