第26話 第一部隊勤務
「本当に師団長の許可を取ってくるとは……」
第一部隊の討伐の日。色々と手回しをしてくれたアイルは、半分呆れた顔で言った。
「わかってたくせに」
「まあ、仕事のことで『やる』と言えばお前は必ずやるよなあ……」
アイルは、はは、と笑っていた。
第一部隊だけに僕をねじ込むという力技をやってのけるアイルも相当だと思うけど。
「で?」
アイルは興味津々に、僕が手にしている物に視線をやっていた。
「ああ。この魔法弾を使用すれば、一気に魔物を片付けられると思う」
僕は細長い筒状の鉄の塊をアイルに渡して見せた。
この魔法弾は、魔術師の魔力を込めて、広範囲に攻撃を放出出来る代物で。
最近魔物が増えて手をこまねいていた騎士団や魔術師団にとっては、普及すれば画期的な物になるのは間違いない物だった。
「実践で立証させて早くに実用化させたいだろうなあ、これは。」
そう言って魔法弾をまじまじとアイルは見て言った。
「だからこそ、僕が現場に出る許可が出たってわけ」
「この前の記録アイテムといい、凄いな、お前は
」
魔法弾を僕に返してアイルが言うので、「まあね、」と返せば、アイルは笑っていた。
「でもさ、本当に凄いのは騎士団員たちだよ。前線に出て魔物を倒すのは彼らたちなんだから。僕はその危険を少しでも減らす手伝いをしたいだけ」
下積み時代、僕は魔術師だから、後方支援が主だった。それでも危険はつきまとう。そんな魔術師を守りながらも騎士団は魔物と対峙しているのだ。
そんな下積み時代の経験から、僕は現場の負担を減らしたい、そんな想いで研究を進めてきた。
副師団長という地位はそれを許される場所だったのだ。
「ありがとな……」
そんな僕の想いを汲み取ったアイルが、いつもの笑顔でお礼を言うので、僕は思わず照れてしまった。
親友のアイルが率いる騎士団。
彼の力になりたい、という想いもきっと彼には届いているのだろう。
唐突にそう思えて、恥ずかしくなる。
そんな僕を見て、アイルは穏やかに笑っていた。
「……仲良いですよね」
いつの間にか後ろに立っていたリナが呟いた。
聖女のローブ姿に着替えた彼女を見るのは三度目だけど、やっぱり綺麗で。
「レイン?」
またしても見惚れてぼーっとしていた僕は、返事をしないので、彼女が頬を膨らませて僕を覗き込んだ。
「綺麗だ」
「えっ……」
素直に声に出して言えば、彼女も顔を赤らめて。
「ふうん?」
そんな様子の僕らに、アイルはニヤニヤしていた。
「何ですか?アイル様」
そんなアイルをジト目で彼女が見れば、益々ニヤニヤした顔で言った。
「|レイン«・・・»ねえ。随分仲良くなったみたいだな?」
アイルがからかうように言った言葉に彼女は真っ赤になっていた。
「まだ手は出してないから」
僕はアイルにこっそり言うと、「当たり前だ!」と兄の顔をして言った。
……キスくらいなら許されるだろう、と心の中でこっそり思った。
「では、行きますか。現場ではいちゃいちゃしないように」
本気なのかふざけているのか、副団長とは思えないおちゃらけた顔でアイルが言うので、僕も半分本気、半分ふざけて答えた。
「なるべく勉める」
「なるべくかよ!!」
リナはまだ顔を赤くして、僕たちのやり取りを笑って見ていた。
◇◇◇
「本当に来たんですか」
予め説明されていただろうに、僕は怪訝そうな顔の彼に出迎えられた。
マリウス・ブローダー。第一部隊隊長の彼に会うのは、僕の婚約宣言以来だ。
彼の僕を見る目は厳しい物だった。しかし、仕事と割り切っているのか、意外にも大人の対応だった。
「今日はよろしくお願いいたします」
彼が僕に頭を下げれば、僕は驚いた顔で固まっていた。
「何か?」
怪訝そうな表情は変わらないまま、彼が僕を見る。
「いや…、よろしく」
思わず僕も頭を下げた。
それを見た彼は、「では」と隊の中に歩いて行ったのだった。
僕はリナのことで彼を敵視していたけど、真面目な奴なのかもしれないなあ……。
ホント、リナのことになると僕は至らない。
だからといってリナを譲る気は無いけど!
「レイン?」
そんなことを考えていると、リナが横からひょこっと顔を覗かせて来た。
ああ、可愛い!
思わず僕はリナを抱きしめた。
「レ、レイン……!ここは仕事場です……!」
慌てて身体を離そうと身動ぐ彼女に僕もハッとして、身体を少し離す。
「リナ、リナのことは僕が守るから安心してね」
そう彼女と見つめ合えば。
「リナを守るのは俺の役目なので、副師団長殿は、後方で仕事をなさってくださって大丈夫です」
厳しい隊長の声が僕たちの間を割って入ってきた。
隊の中に戻ったはずなのに、何でいる?リナが来たから戻って来たのか?
前言撤回。
やっぱり彼は敵だ!!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます