第25話 同棲?

「どうぞ」

「お邪魔します……」


 僕はリナを連れて魔術師団の僕の部屋にやって来た。彼女のアパートよりもセキュリティがしっかりしているので安心だと思って、連れてきた。


「凄い。綺麗にしてるんですね」


 リナは荷物を置いて、僕の部屋をまじまじと見ていた。


 必要最低限な物しかない僕の部屋。綺麗に片付いてはいるけど、つまらなすぎてそんなに見られると恥ずかしい。


「研究室で寝泊まりすることが多いからね。物は少ないけど、生活する分には問題無いよ」


 説明する僕を他所に彼女は颯爽とキッチンに向かって、冷蔵庫を開けた。


「レインさん……?」


 冷蔵庫の中身を見た彼女は、ちょっと怒った顔でこちらを向いたので僕は何事かと思う。


 僕がわかっていない顔をしていたので、彼女は益々怒って僕に近付いて来た。


「私の家でご飯食べてない時は、ちゃんと食べてるんですか?」

「あ……」


 彼女の家でご馳走になる時以外の食事は適当だった。大抵が研究室に籠もっているため、片手でつまめるもので済ましていた。食べない時もざらにある。


「私がずっと一緒にいるからには、ちゃんとした食事取ってもらいますからね!」


 腰に手を当てて、人差し指を僕にズイッと指さした彼女が迫ってきた。


 ……空っぽの冷蔵庫が、彼女に火を付けてしまったらしい。


「次のお休みは、買い出しに行きますよ!」


 そう張り切ってキッチンを再び彼女は物色しだした。


 そんな彼女も可愛すぎて困る。


 しかも、僕の部屋って。これはマズイ。


「必要な物があったら言ってね。じゃあ、部屋は好きに使って良いから」


 「また明日」そう言って僕は部屋を出ようとした。


「え!!」

「え?」


 彼女が慌てて僕に駆け寄って来たので、僕も慌てて彼女に駆け寄る。


「リナ? 何かあった?」


 心配で彼女の手を取れば。


「レインさん、一緒にいてくれないんですか……?」


 彼女を見れば、僕を見上げる彼女の瞳と僕の瞳が絡み合う。


 ヤバイ。可愛すぎる。 


 彼女は心細いだけ。何とかそう自分に言い聞かせたけども。


「レインさん……?」


 握った手を不安そうに握り返して来た彼女がたまらなく愛おしくて。


 彼女の身体を、僕は思わず壁に押し付けて、キスをした。


 「レインさ……」


 彼女の両手を拘束して、僕は何度も可愛い唇にキスをする。


 僕は思わず彼女へのキスに夢中になったけど。


「大丈夫だよ、リナ。僕が必ず守るからーー」


 彼女の不安を払拭したくて僕がそう言えばーー


「レイン……」


 蕩けるような顔の彼女が、呟くように僕の名前を呼んだ。


 彼女が僕を『さん』付けでは無く名前で呼んだことで我に返る。


 夢じゃないかと彼女を見れば、恥ずかしそうに俯いていた。


 夢じゃない。


 やっば!!!!


 名前を呼ばれた嬉しさが一周回って、冷静になれた僕は、彼女から身体を離した。


「ここは安全だから、安心して。僕は仕事もあるし、研究室で寝るから」

「え……それじゃあレインが休まらない…」


 彼女は僕の身体を優先して想ってくれているのがわかった。……わかったけども。


「リナ」


 僕はリナが名前で呼んでくれている嬉しさを噛み締めながらも、何とか理性を保って言った。


「僕も男だからね? キスだけじゃ済まなくなる」

「!!!!」


 そこまで言うと、リナはようやく理解したようで。


「わ、かっ……た」


 顔を真っ赤にして、何とか言葉を発していた。


 ああ、ヤバイ。


 でもこういうこと理解していたと思うのに、飲み屋での真っ赤な反応は何だったんだろう?


 ふと僕は考える。


 『一緒に住む』ってことだけで真っ赤になっていたのかな?なら、キスで踏み止まって本当に良かった……!


 あああ、僕、偉い!


「でも、ご飯は一緒に食べてくださいね!」


 僕の身体を心配してくれている彼女は、そこは譲らない、と言った顔で言った。


「もちろん。ありがとう」


 また明日の朝に来るね、と僕は彼女に言って部屋を後にした。


 ………。


 よく考えたら、僕が一番危険じゃない?


 いやいや、僕、婚約者だし。


 はあーー、早く結婚したいなあ。


 大きくため息をついた僕は、部屋の外でへなへなと座り込んだ。


 アイルも動いてくれてるし、早く解決すると良い。


 リナのウエディングドレス姿は絶対に綺麗だろう。僕は、そんな想像をして浮かれた。


 リナが本当に危険に晒されているなんて思いもしていなかった。


 それに、僕ならリナを守れる。副師団長という自分の肩書きと魔力を過信していたのかもしれない。


 リナに危険は確実に迫っていた。でも僕はまだこの時は何も知らずに、始まったばかりのリナとの半同棲生活に浮ついていた。


 そして浮かれた気分のまま僕は、第一部隊への派遣をねじ込むために、師団長室に向かったのだった。

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