第28話 二人で里帰り

「じゃあ、僕は歓迎されてるの?」


 次の休日。リナと僕は馬車に乗って、孤児院に向かっていた。


 婚約宣言もして、周知されて来たので、二人でシスターとアンに挨拶に行こう、となった。


 その道中で、第一部隊の話になったのだ。


 彼らはマリウスとリナがお似合いだと言っていたので、僕は邪魔者扱いされるかと思ったけど、そんな態度を取られることもなく。


「むしろ、『副師団長を捕まえるなんて凄い』ってお祝いされました」


 皆にお祝いされて嬉しそうなリナが笑って話してくれた。可愛い。


「第一部隊の人たちって良い人たちだよね」


 僕がポツリと言えば、リナは「はい!」と言って嬉しそうに笑った。第一部隊が彼女の大切な居場所なのは確かで。


「一番は僕だよね?」


 つい僕はリナに意地悪を言ってしまった。


 狭い馬車の中、僕はリナの隣に座り直し、リナを至近距離で覗き込む。


「も、もちろんです……!」


 僕に迫られ、真っ赤になりながらもそう答えてくれたリナに僕は満足する。


 そうこうするうちに、馬車は孤児院近くの村の入口にたどり着いた。


 馬車を待たせて僕たちは孤児院に向かって歩き出した。そして孤児院の入口まで着くと、アンが庭先で子供たちと遊びながら待ってくれていたようだった。


「レインにーちゃーーーーん!リナーーーー!」


 元気いっぱいに手をぶんぶん振るアンを見て、僕とリナはお互い見合って笑った。


 この変わらない温かい家に、僕たちは二人で帰って来ることが出来た。そう思うと、胸が熱くなった。


「お帰り」


 変わらない優しい笑顔で迎えてくれたシスターに、僕たちは婚約の報告をした。


 涙を浮かべながら、嬉しそうにシスターは僕たち二人の手を握って「おめでとう」と言ってくれた。


 そして、そのまま中に導かれて、僕たちはシスターと席についた。


「リナ、レインにーちゃんに追いつくどころか、モノにするなんて、やったじゃん!」


 お茶を持ってきてくれたアンが開口一番、リナに向かってガッツポーズをした。


「ちょっと、言い方……」


 リナは恥ずかしそうに額に手を置いた。


「アンも座りなさい」


 シスターに促され、お茶を配膳し終わったアンは「はーい」と言って、椅子に座った。


「あれから心配していたんですよ」


 二人に背中を押されて、リナを取り戻しに行ったあの日。それから何だかんだとあったのと、婚約を公に出来ないことから、シスターに手紙すら出せずにいた。


「すみません……」


 あんなに心配をかけておいて、と僕は申し訳なくなった。それはリナも同じみたいで。


「シスター、ごめんなさい。レインは私を守るために……」

「守る??」


 違和感を覚えたアンが会話に割って入る。


 僕たちは事の次第をかいつまんで話した。


「えーー、何それ。面倒くさっ!」

「アン」


 僕たちの話を聞いて声を上げたアンをシスターが嗜める。


「事情はわかったけど、大丈夫なの?」

「はい!リナは僕が守るので大丈夫です!」


 心配そうなシスターを安心させるために僕は力強く答えた。


「レイン……」


 隣のリナが感動して僕を見つめた。


 こんな当たり前のことにいちいち感動したり喜んでくれるリナ。僕も胸が熱くなる。


 もっともっとリナを幸せにしてみせるよ。


 言葉には出さなかったけど、僕は改めてシスターとアンの前で誓った。


 それから、僕たちは色んな話をした。


 孤児院が変わらず平和に運営出来ていることも安心した。シスターは僕とリナのおかげだと静かに笑っていたけど。シスターがいてくれるからなんだよな、と僕は思った。


「お互い呼び捨てなの激アツだね」


 アンがそう言ってからかうので、僕もリナも恥ずかしくて赤くなった。


 楽しいひとときはあっという間で。


 僕たちは帰る時間になり、シスターとアンが孤児院の外まで見送ってくれた。


 アンとリナが話している間、シスターが僕の所にやって来て、こっそり耳打ちをした。


「あまり無理はしないようにね」

「え?」

「顔色が悪いわ」

「!!!!」


 誰も気付かない程の変化に気付くシスターは流石だった。


 僕は思わず驚いてシスターを見た。


「リナのためなのよね」


 わかっているわ、という優しい顔でシスターは微笑んでいた。本当に敵わない。


「はい」


 僕がそう答えれば、シスターは僕の手を握って。


「抱えすぎないで、ちゃんと周りにも頼ること。あなたが倒れたら、リナが悲しむわ」


 そう言ってくれたシスターは母の顔で。僕はシスターの手を握り返して、「はい」と答えた。シスターは何も言わずに、微笑みを返してくれていた。


 「じゃあ気を付けて」


 アンとの話が終わったリナと、シスターの前に並んで再び挨拶をすれば、一人一人の手を握って声をかけてくれた。


 そして僕はリナと手を繋いで、村の入口に向かって歩き出した。


「また来てねーー!」


 出迎えてくれた時と同じようにアンが手をぶんぶん振って、見送ってくれた。


 それを見て僕たちは、また笑い合った。


「また来ようね」


 握ったリナの手を更にギュッと握りしめれば、


「うん!」


 リナも手をギュッと返してくれた。


 こんな穏やかな日が続くように、僕はもっと頑張る。そしてリナを守るんだ。そう誓ったのだった。

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