第35話 救出

「リナ!!!!」


 アイルとマリウスを連れて転移して来た先は、やはりリナの監禁場所だった。


 リナは後ろで手をロープで縛られ、まさに今、口元のロープを緩められ薬を飲まされそうになっている所だった。


「くそっ!」


 リナに薬を飲ませようとしていた男は、どこか見たことある奴で。


 いきなり僕たちが転移してきて驚いていたが、急いでリナに薬を飲ませようとした。


 男を殺してやりたい怒りと共に、三人転移で少しクラリとした僕は、魔法を繰り出せず、「ヤバイ」と思った。が。


「がっ…、」


 思ったと同時にアイルとマリウスが男を取り押さえていた。二人を連れてきて良かった。


「リナ!!」


 僕はふらつきながらも急いでリナの元に駆け寄る。


 アイルが男を縛りあげ、マリウスはリナの手のロープを解いてくれていた。


「レイン……」


 弱々しく僕を見上げ、リナはホッとした顔を見せてくれた。


「リナ……!!遅くなってごめん!!」


 僕はリナを抱きしめた。縛られていた以外は見える外傷も無く、安心する。


「レイン、助けに来てくれてありがとう……」


 僕に抱き締められながら、フッとリナの力が抜けるのを感じた。


「リナ?」


 リナを抱えるようにして起こせば、リナは安心したのか、気を失っていた。


 そんなリナを見て、僕は「本当にごめん」と泣きたい気持ちで抱きしめた。


「ここはどこなんだ?」


 男を縛り終えたアイルが僕に聞いて来たので、僕も答える。


「どこなんだろう?」


 見渡す限り、地下なのは確かだ。窓は無く、部屋の奥に階段がある。階段の上には扉がある。


「わからないのに転移出来たのか?!」


 ギョっとするアイルに、僕は思い出したことを説明する。


「リナに渡したバレッタ、これが起動したみたいだ」

「バレッタ?」


 僕は、リナがプレゼントしたバレッタを付けてくれていて、本当に良かったと思った。


 ピンクの石が付いたリボンの形のバレッタ。そのバレッタを撫でる。


「リナが僕に助けを求めたら転移魔法が発動するように付与しておいたんだ」

「そういうことは、先に言っておいてください!」


 僕の説明にマリウスが怒った。


 ごめん。僕も忘れていた。


 あの時、魔法陣が発動したとき、僕はようやく思い出した。


「いや、万が一に付与していた魔法を使う日が来るなんて思わなかったから」

「お前、やっぱ凄いな」


 怒っているマリウスとは反対に、アイルは関心して、うんうんと頷いていた。


「いきなり転移させられて、心の準備というものがですね……」


 マリウスの続くお説教に、よほど驚いたのが伝わった。転移するのは初めてだったそうで(そりゃそうだ)、僕はひたすらごめん、と謝った。


「でも口を縛られたら何の意味も無いな。これは改良しないと……」


 リナが僕に助けを求める「声」に反応するように付与したこの魔法には欠点があると気付いた僕は、すぐさま改良に頭がいった。


「副師団長殿……?」


 マリウスのお説教の途中で考え込んでしまい、マリウスのお説教は益々長くなってしまった。『副師団殿』という呼び方がまた怖い。


「ところで、リナが飲まされそうになってたの何?」


 アイルがその薬を手にしていたので、僕は話を変える。


「わからないな。これは持ち帰って調べてもらおう。落ち着いたらリナにも話を聞かないと」


 怖い思いをしただろうに、リナに話を聞くのが仕方ないこととはいえ、僕はリナの気持ちを思うと、ギュッと抱きしめられずにはいられなかった。


 ふと、縛られた男を見れば、僕は急に思い出す。


「あ、こいつ! エリーズの浮気相手?」

「今気付いたのか……」


 アイルは呆れて僕を見ていた。


 流石、副団長。元でも隊員の顔は覚えていますよね。


「クレマ? 何の騒ぎ……」


 突然、階段上の扉が開き、甲高い声が響いた。


 その声に僕の身の毛がよだつ。


 ここはやはりシュクレンダ家なのだ。副隊長たちをあしらってきただろうエリーズが様子を見に来たようだった。


「エリーズ………!!」

「レイン……?」


 睨みつける僕に、エリーズは驚いていた。そして縛られたクレマを見、ちっ、と舌打ちするのを僕は見逃さなかった。


 シュクレンダ家の地下であること、そしてこの男とエリーズが通じているのはわかっている。言い逃れは出来ない。


 逃げるかと警戒したマリウスが捕らえようという態勢になっているのが見えた。しかしエリーズは逃げなかった。


 その甘い、甲高い声で僕に近寄って来たのだ。

 

「レイン……! 会いたかった!」


 リナを抱えた僕は動けずに、顔がひきつる。


 マリウスが警戒して、僕の前に立ち、守るようにして手を広げてくれていた。


「レイン、私とやり直しましょう?」


 そう言い放ったエリーズは目を潤ませて僕を見ていた。


 何を言っているんだ?この女は。僕はまた吐きそうになる。


「私と結婚した方があなたは幸せになるわ。そんな女よりもね」


 そう言ってリナに触れようとしたので僕はリナを守るように抱きしめた。同時にマリウスもエリーズの手を掴んでいてくれた。


「今の状況、わかっているのか?」


 マリウスの問い詰めに、エリーズはふん、と余裕の顔をして見せた。


「私には宰相様がついているんだから。」

「宰相が裏で糸を引いていることを白状するんだな?」


 マリウスとのやり取りに、どこまでも馬鹿な女だ、と思った。あっさりと宰相とのことを話すなんて。


「騎士団に来てもらおうか」


 縛り上げたクレマを抱えてアイルが言った。

 

 それを聞いたマリウスがエリーズを拘束する。


「何よ! こんなことして済むと思っているの?」

「あなたこそ、立場を弁えられよ!」


 騒ぐエリーズにマリウスが厳しく言うと、エリーズはマリウスを睨みつけながらも、静かになった。


 そして地下室を上がり、シュクレンダ家の外に出ると、第一部隊が前で待っていた。


 外に出るまでは一人の執事にしか会わず、状況もわかっていないようだった。娘がこんなことをして、シュクレンダ男爵家もいよいよ終わりだろう。


 第一部隊にクレマとエリーズを引き渡すと、エリーズはまだ騒いでいた。


「レイン、話し合いましょう!」


 僕は抱えたリナを抱きしめて無視をする。今更話し合うことも、あの女の声に耳を傾ける筋合いもない。


「どうせあなた達は別れる運命なのよ!!」


 騎士団の馬車に連行される直前、エリーズは僕に言い放った。


 悔し紛れか嫌がらせか。ただの虚言だ、そう思うのに、僕は、不安に心が波立った。

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