第22話 Sideリナ⑥
その日、アイル様がいやにニヤニヤしていたので、私はすごく嫌な予感がしていた。
その予感は的中で。
通された馬車の前には、魔術師の制服に身を包んだレインさんがいた。
もおおお、アイル様!!!!
心の中でアイル様を責めたけど、アイル様はどうやら私たちが良い感じだと知り、お互いにちゃんと素性を明かしていると思いこんでいたみたいだった。
引き伸ばしていたのは私なので、アイル様を責める権利なんてないのだけど。
それでも、こんな形で知られてしまうなんて。アイル様を恨んでしまう。
馬車の中で私はどう話したら良いんだろう、とあれこれ考え込んでしまった。すると最初に口を開いたのはレインさんだった。
レインさんは怒っているんじゃない、ショックを受けているんだ、と私はレインさんの言うことに何も言えずに黙り込んでしまった。
私だけがレインさんの嘘を知っていた。そんな卑怯な私の言葉がレインさんに届くはずもなく。
「私は本当にレインさんのことが好きで……」
「信じられるわけないだろ。君は僕に嘘をついていたんだから」
そう言ったレインさんの瞳が傷付いているのがわかった。
こんな酷い言葉を言わせたのは私だ。
悔しくて、悲しくて。レインさんに嫌われたくなくて。言葉が出てこなくて涙だけが溢れた。
何か言わなくちゃ。
でも言えなくて。そうこうするうちに馬車は討伐地に着いてしまった。
泣いてしまった自分が気まずくて。馬車の入口まで迎えに来てくれたマリウスにホッとしてしまい、私はレインさんを馬車に残して来てしまった。
聖女の仕事をきちんとしなければ。
その思いだけで何とか討伐をこなしていたものの、その時の記憶は無い。ふとした瞬間にレインさんの傷付いた顔がよぎった。
気が付くとマリウスが私を庇って怪我をしていて。
「マリウスごめん……」
討伐後、癒しの力をマリウスに使って謝罪すれば、マリウスは逆に私を心配してくれていた。
優しい同僚に益々自分が情けなくなる。
レインさんと話をしなきゃと思っていたのに、レインさんはその日、自身の転移魔法で帰ってしまった。
それから一週間。
私はすっかりレインさんに嫌われてしまったと落ち込んでいた。
傷付いたレインさんを幸せにしてあげたかったのに、結局私も傷付けてしまった。
婚約破棄を経験したレインさんは、その痛みを知っているから。
優しいから私との婚約破棄なんて出来ない。私は、その優しさに漬け込んでいるんだ。
そんな風に自分を責めては、自分の頭を叩いた。
「私のバカ………」
第一部隊の休憩所で私は机に突っ伏していた。
他の部隊の皆は訓練も終わり、飲みに出掛けて、誰もいなかった。私もマリウスに誘われたけど、そんな気分になれず、お断りした。
マリウスは元気の無い私に気付いているみたいで、心配そうな顔をしていた。本当に優しい友人だ。
「レインさん……」
会いたいなあ……と思って呟けば。
「レインじゃなくて悪いな」
「?!?!?!」
アイル様が帰り支度をして「よっ!」と休憩所に入ってきた。
今の聞かれた?!?!
恥ずかしさで顔が赤くなる。
そんな様子の私にアイル様は、正面の椅子に腰掛けて心配そうに覗き込んできた。
「レインと喧嘩でもしたか?」
「………」
黙ってしまった私の頭に、ポン、とアイル様の手が置かれた。
その温かい手に涙が出そうになる。
「私が悪いんです……。レインさんを傷付けてしまって……。私、嫌われちゃいました」
自分で言った言葉に傷付いて、涙が出てきてしまった。
多くを話さない私に、それでも温かい眼差しでアイル様は話を聞いてくれていた。
「詳しくは聞かないけど、レインがリナを嫌ったということは無いよ」
そう言うと、アイル様はレインさんがあの日持っていたアイテムを私の前に置いて、スイッチを押した。
あの日の討伐の日。
最初は第一部隊を映していたものの、次第に映るのは私だけになった。
この魔法はレインさんが見たもの、聞いた物を再現する…………
そこまで考えて顔が赤くなった。
これを見ればレインさんの想いが伝わった。
「レインに使えない、って伝えておいてくれる?」
そう言ったアイル様の顔は優しくウインクをしていて。
私はアイル様にお礼を言って、そのアイテムを手に走り出した。
レインさん、私、自分の気持ちばっかりでごめんなさい!!レインさんはこんなにも私を想ってくれていたのに。
始まりは嘘だったけど、過ごしてきたあの時間は嘘じゃなかった。
お願い、レインさん。私を待っていて!!
私はレインさんの研究室がある魔術師団に向かって、全力で走った。
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