第21話 Sideリナ⑤

 それから。レインさんはお仕事終わりに私の手料理を食べに来てくれるようになった。


 二人で食事を取る時間は本当に穏やかで幸せだった。


「美味しい」


 そう言って料理を食べてくれるレインさんに嬉しくて私はいつも笑顔になってしまう。

 

 そのうち、レインさんもポツリと自分のことを話してしくれるようになった。孤児院の話が出てきた時はドキリとした。


 私もそこの出身なんです!!と言いたかったけど、まだ『聖女』であることを言い出しにくく、そこを話してしまえば芋づる式に話さなければいけなくなるのは明らかで。


「頑張ったんですね」


 とレインさんの頭を偉そうにも撫でてしまった。後から考えると恥ずかしい。


 でも自己評価が低いレインさんに、もっと自信を持ってほしくて。あと、レインさんが可愛くて。つい撫でてしまった。


 こんな可愛いレインさんを皆は知っているのかな?そう思うと、嬉しくてニヤニヤしてしまう。


 そのうち、レインさんからデートに誘われて、私は有頂天になった。


 初めてのデート。仕事終わりとは違うラフなレインさんにドキドキした。


 思いっきりお洒落をして、手を繋いで、食事をして。沢山の初めてで幸せいっぱいだったのに、レインさんは指輪まで作ってくれた。


 こんなに幸せで良いのかな……そう思って宝石店の外で待っていると、見知った顔が声をかけてきた。


「リナ……あの男は……」


 マリウスだった。何故か彼は怒った顔をしていたけど、私は騎士団の部隊長である彼と一緒にいる所を見られたらマズイと思い、彼の手を引っ張って、向こうの通りまで連れて行った。


「マリウス、理由は聞かないで今日は見なかったことにして欲しい」


 そう言って拝むように彼にお願いすれば、彼は益々機嫌が悪くなったようだった。


「リナ、何でアイツと……! 婚約破棄したばかりの男といて悪く言われるのはお前だぞ!」


 酷く興奮した様子のマリウスに、冷静な彼らしくもないと思いながら私は答える。


「噂がくだらないと言っていたのはマリウスでしょ」

「リナが関わるならくだらなくない……!」

「マリウス……?」


 そう言ってマリウスは私の腕を掴んだ。


「リナ!」


 マリウスが何か言おうとしたその時。


「僕のリナに何か用かな?」


 レインさんが間に割って入ってきた。


 ふたりは何やら言いに合っていたが、私は『どうしよう……!』ということに頭がいっぱいだった。


 そうこうするうちに、レインさんが私の手を取って走り出したので、私はその場を離れられてホッとする。


 後ろを振り返ると、まだ怒った顔のマリウスが立ち尽くしていた。


 その後、彼のことをレインさんに問い詰められて困ったけど、ヤキモチを焼いていたとレインさんに言われて私は嬉しくなってしまった。


 そして初めてのキスとバレッタのプレゼント。


 言えないことを聞かないでくれたレインさんに、このままで良いのかな、と胸が苦しくなったけど。


 ただ今はレインさんの腕の中で幸せを感じていたかった。


「指輪が出来たら……」


 とそこまで言ってレインさんは黙ってしまった。


 指輪が出来たら、お互い話をしようということなのだと私は悟った。


 レインさんは話してくれる気になったのだとわかった。


 私はレインさんのことを知っている。でもレインさんは本当の私を知らない。


 本当のことを話して嫌わないでくれるかな?

 この幸せがどうか壊れませんように。私はレインさんのことを信じていると言っておきながら、そんな心配でいっぱいだった。


 レインさんの心の傷が癒えるのを待ちたいと言いながら、私はレインさんに嫌われるのが怖かった。


 レインさんと過ごす日々は本当に幸せで。


 レインさんにタイミングを押し付けて本当のことを話すのを引き伸ばしていたのは私。


 だから最悪のタイミングで本当のことがバレてしまうなんて考えてもいなかった。


 指輪が出来たら私もレインさんにちゃんと話そう。そしてこの気持ちだけは嘘じゃないって、ちゃんとわかってもらおう。そう思っていた。


 なのに。今まで願っても無かった接点が、何で今?!

 後から考えても、そう思う。神様って意地悪だ。


 第一部隊にレインさんがやって来たのは、デートから六日後のことだった。

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