第20話 Sideリナ④
「僕と結婚してください!!!!」
「はい。よろしくお願いします」
………あれ?つい勢いで返事してしまった。
いや、レインさんからのプロポーズ!!嬉しい!!え?
私は突然の出来事に笑顔を作りながらも、内心パニックだった。何でこうなったんだろう?
そんなパニックのわたしを他所に、アイル様は驚いた顔から一転、
「よし!じゃあ、俺が保証人になろう!」
そう言って上着の内ポケットから華麗に婚約誓約書を取り出した。
いやいやいやいや、何でそんなもの持ってるんですか!
そしてその勢いのまま、私とレインさんは誓約書にサインをし、教会に向かって、手続きを済ませてしまった。
「ちょっとアイル様」
帰り道、酔っ払ってふわふわ歩いているレインさんの後ろへ少し離れて、アイル様を引っ張ってこっそりと話す。
「紹介だけのはずでは」
「いやー、まさかアイツがリナにプロポーズするなんて」
「いやいや、酔ってましたよね?」
こんなだまし討ちみたいに婚約して良かったのかな、と今更心配になってくる。
「レインには荒療治が必要だと思った。世の中の女性がエリーズみたいなのばっかだと思うのも可哀想だろ」
「そうですけど」
心配する私にアイル様は笑って続けた。
「レインがリナに惹かれたのは事実だよ。やっぱり俺は正しかった!」
アイル様は満足げに私の頭に手を置いて、ふわりと優しく撫でた。
「レインのこと、頼むな?」
「はい……」
そう言って手渡された婚約誓約書に目を落とせば、実感がジワジワと湧いてくる。
私、レインさんと婚約したんだ……。
「リナー!」
感動に浸っていると、いつの間にか前を歩いていたアイル様が私を呼んだ。
「どうしたんですか?」
急いで駆け寄れば、酔い潰れて道に眠るレインさんがいた。
可愛い。
レインさんはカッコいい。でも、こんな可愛い人でもあったんだ。知らなかった一面を見られて嬉しい。
これからは色んな一面を見られるのかな。
そう思っていると、アイル様がレインさんを担いで言った。
「リナの家、近くだろ? レイン泊めてやって」
「ええええ?」
アイル様の発言に思わず叫ぶ。
「大丈夫。酔って寝てるだけだから。襲わないから。」
顔を真っ赤にして口をパクパクさせていると、アイル様は楽しそうに続けた。
「それに、お互い、自己紹介からな?」
アイル様の言葉にあ、となる。
話さないといけないことは沢山だけど………。
「『聖女なんて嫌いだ』なんて言ってたけど……。すぐにとは言わないけど、ちゃんと話すんだぞ。婚約者なんだから」
「そんな無責任な〜……」
それに明日は仕事なのでは、そう思っていると。
「レインは明日遅めの出勤で良いはずだから。リナは休みだろ?」
「はい……」
「リナなら大丈夫。レインと上手くやっていける」
そう言ってアイル様は再び私の頭を撫でた。
私のお兄さん的存在でレインさんの親友。そんな副団長様が太鼓判を押してくれたのだから、きっと大丈夫だよ……ね?
「レインだって無責任な奴じゃないからな」
ビシッと人差し指を向けて真剣な顔をするアイル様。
「レインさんのことは信用してます」
そう言って私も真顔で即答すれば、「俺のことは信用してないのか〜?」と言ってヘニャヘニャと笑った。
自分で言った言葉に励まされる。
そうだよ。レインさんは私を蔑ろにする人じゃない。きっと分かり合えるよ!
その日は私のベッドにレインさんをアイル様が運び、私は二日酔いで気分が悪くならないようにレインさんに癒しの力を使った。
レインさんならこの力に気付くだろう。
レインさんの体調を心配してのこともあったけど、聖女だって言い難い私のちょっとした逃げでもある。
「レインさん、私のこと嫌いにならないで」
そう願って呟いた。
翌朝、レインさんはちゃんと覚えてくれていたものの、かなり驚いていた。
そりゃそうだよね。昨日会ったばかりの私と婚約しちゃったんだもん。
眉間に皺を寄せてレインさんが考え事をしていたので、こっちを向いて欲しくて。
「一目惚れなんです」
「え? 僕? アイルじゃなくて?」
そう伝えればレインさんは驚いたように言った。
何でアイル様??
そう思ったけど、レインさんは自己評価が低いんだと直ぐにわかった。
こんなに努力して副師団長にまで登り詰めた人だというのに。
そんなレインさんに愛おしさが込み上げる。
一目惚れだと伝えた私の顔は赤くなっていて。つられて赤くなったレインさんの顔を見て、益々「可愛い」と愛おしくなった。
それから、アイル様が考えた設定を話すと、レインさんはホッとした様子だった。
やっぱりエリーズ様との婚約が、レインさんの肩書目当てだった、てことが傷になっているみたいで。
アイル様の言うとおり、少しずつ分かり合っていけたら良いな、と思った。
「訳あって、婚約したことをしばらく隠したいんだ。それでも良い?」
そうレインさんに言われれば、婚約破棄したばかりだし、当然だな、と思った。そして私は図々しくも、条件を出した。
「たまには私の手料理を食べに来てください」
と。レインさんとお話しする機会を作りたかった。ゆっくりとレインさんの傷を癒やして、私のことも好きになってもらえたら良いなあって。
レインさん、どうか私との婚約を後悔しないで。
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