第23話 依頼のやり直し

「そっちに回れ」

「こちらは殲滅しました! 浄化を!」


 相変わらず統制の取れた第一部隊を僕は見通しの良い高台から見ている。


 そう、あの日僕が受けた依頼は見事に使えない物だったので、再び僕は第一部隊の通常業務にくっついて来てやり直しをしている。


 隣のアイルを見れば、仕事モードの顔つきで、いつものおちゃらけた感じは一切無い。当たり前だけど。


 数日前、アイルにやり直しをお願いして「あたり前だ」と、この機会をもらった。


 ただ、この前の失敗は公にしてくれずに、『視察』という形にしてくれている。有難い。


「せっかくだから現場に役立ちそうな研究思い付けよ〜」


 アイルからは冗談交じりに言われたけど、せっかくなので今自分が研究していて、ほぼ完成している、|あれ«・・»の実用に向けても考えよう。


 そう思って僕は今度こそ仕事を全うした。


◇◇◇


「レインさん?!」


 討伐が終わり、アイルと同じテントの下で休んでいると、リナが驚いた顔で僕を見つけた。


 騎士団では接触出来ないだろうと、結局リナには言いそびれたままだった。


 思わず会えて僕は嬉しくて、にやけてしまう。


「どうしたんですか?」


 僕に近付いてコソコソと話す彼女の仕草に思わずキュンとする。

 こうして聖女のローブを纏った彼女を改めて見ると、綺麗だなと思った。


「レインさん?」


 相変わらず僕を『さん』呼びする彼女は、僕が見惚れてぼーっとしていたので少し頬を膨らませて怒っていた。


「聞いてます?」

「あ、ごめん。今日は視察で来たんだ。というのは建前で、この前のアイテムが使えなかったから、やり直し。」


 ああ、と納得した彼女は、「また」とこっそり囁いて、第一部隊の目を気にしながら直ぐに立ち去ってしまった。


 去り際、小さく僕に手を降って微笑む姿が可愛くてやばかった。


「じゃあ引き上げますか」


 諸々の伝達を終えたアイルがテントに戻って来た。

 ちなみに今日はリナと同じ馬車ではない。前回はアイルの気の利かせすぎだ。おかげでこじれたのか良かったのかは謎だけど。


 

 無事に騎士団の領地まで戻ってきた僕は、アイルにアイテムを渡すと、リナの姿を探した。


 見渡すと、リナは第一部隊の皆に囲まれながら、楽しそうに話をしていた。

 前の僕ならヤキモチ全開だけども。


 今は彼女を仲間として受け入れてくれる第一部隊が彼女のもう一つの居場所なのだと知っているので、そんな子供っぽい感情は持たない。


 もう一つの居場所は僕だからね!

 

 ……先日、リナに独占欲全開にしていながら、しかも自分でこんなことを思っているなんて。


 僕はすぐに恥ずかしくなった。


 そんなことを考えながらも彼女を見れば、リナはまだ話をしているようで。僕は終わるのを遠くで待つことにした。


 僕たちの関係が秘密なのは面倒くさいなあ。


 すると。


「リナ、隊長との婚約はいつだ?」


 そんな会話が聞こえてきた。

 慌てて会話の先に目をやれば、第一部隊の隊員が盛り上がっていた。


 その場に隊長はいない。リナは困った顔で答えていた。


「私とマリウスはそんな関係じゃないから」

「またまた〜」

「二人はお似合いですよ!」

「身分差を気にしてるのか?関係無いぞ?」


 リナの否定は隊員たちには届かず、益々盛り上がっているようだった。


 リナが否定してくれているので、僕は割り込みたい気持ちをグッと抑えて会話を聞いていた。


「そうだ! 俺たちが取り持ってやる」

「そうだよ。直ぐにまとまる話だろ。お互い想い合っているんだから」


 盛り上がった隊員たちはリナの手を掴んだ。

 その視線の先を見れば、隊長がいる。



 僕は思わずギョッとした。


 アイルといい、騎士というのはお節介な奴が多いのか。余計なことを……!


 しかも、『お互い想い合っている』というのは聞き捨てならないならない。


 何も言えないリナは困っていた。優しい彼女は仲間を無下にも出来ないだろう。


 リナが隊長の元に連れて行かれるーーーー


 そう思った瞬間、僕は咄嗟に足が動いていた。


「隊長ーー!」


 リナが隊長の元に押し出された瞬間。


 僕は彼女の手を掴んで引き寄せた。


 あの時とはシチュエーションが違うけども。


 また隊長の彼と対峙する形で。


「リナは僕の婚約者だから」


 思わず発した言葉は、その場にいた全員をシン、とさせた。

 構わずに僕は続ける。


「リナは僕の婚約者だから、隊長の婚約者になることは無い」


「レインさん……」


 一瞬驚いて、顔赤くしたリナの肩を僕は抱き寄せた。


 僕の宣言に、隊長の彼はひどく驚いた顔で固まっていた。

 

 他の隊員たちも何も言わず固まっている。

 

 その場の空気がまるで時間が止まったかのようで。

 

 顔を赤くして嬉しそうなリナとは反対に、遠くで成り行きを見ていたアイルが、頭を抱えているのが見えた。

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