君、聖女の前に僕の婚約者でしょ!

海空里和

第1話 プロローグ

 ……鳥のさえずりが聞こえる。


「朝か……」


 昨日は、親友のアイルと遅くまで飲んでいたーーはず。人生最悪の出来事があり、そのせいもあってかなり飲み過ぎた。


「ん………?」


 こんな二日酔いの朝は大抵、頭がガンガンしたはず。何故か今日は気分が良い。とはいえ、身体はだるさを覚えているので、瞼が重い。


 とは言え、仕事もあるので、僕は身体をのそのそと起こした。


 「え……?」


 起きてみてようやく、ここが僕の部屋で無いことに気付く。

 いつもの殺風景な、ただ広い部屋ではなく、こじんまりとした可愛らしい部屋だ。そして、家具等を見ると、どうやら女性の部屋らしい。


「僕、やらかした……?」


 不安になって布団の中を覗く。服は着ている。

 ホッとしたのも束の間、奥から人の気配がしたので、思わず反射的に身構える。


「あ、起きました? 私の婚約者さん」


 現れた女性は、ここの住人らしく、赤茶色の長い髪の毛を後ろで結わえて、手には朝食を乗せたトレーを持っていた。

その小柄で華奢な体格には庇護欲を掻き立てられる。


 いやいや。ちょっと待って。


「こ、婚約者……?」


 覚えの無い話に頭が混乱する。


「はい! 昨日、私たちは婚約しました!」


 そう微笑んで彼女はトレーをテーブルに置いた。そして引き出しから紙を取り出して、僕に見せた。


 婚約誓約書。


 その用紙には僕の名前と、リナ、彼女の名前だろうが記入してある。


 「いや、保証人は??」

 

 そんな簡単に保証人が捕まるはずが無い。そう思って保証人の欄を見ると、『アイル・バーシュタイン』とある。

 王立騎士団の副団長にして、僕の親友だ。

 保証人にはあり余るほどの人材だ。


「はあああああーーーー????」


 思わず声を上げた僕に、彼女はにっこりと笑って


「とりあえず、朝食にしましょうか」


 と言った。

 混乱していたとはいえ、あの時の僕は最低だったと思う。


 まさか彼女が僕の人生の唯一になるなんて、その時の僕は思いもしなかったんだ。

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