第47話 決戦

 次の日、僕たちは装備を整え、目的地まで向かった。


 瘴気が渦巻く場所が近いだけあって、辺りは薄暗く、空気が重い。奥に進むほど、魔物が現れて、戦いを余儀なくされた。


 アイルの指示で第一部隊と第二部隊が次々と魔物を倒していった。ワーズ、カール、アシュリーも後方から的確に魔法で援護していた。流石、精鋭揃い。


 そこをすかさず、三人の聖女が浄化をしていく。聖女たちを守るのはマリウスと第二部隊の隊長だ。


 僕とリナは、目的の瘴気に辿り着くまで、一番後ろで待機している。無駄に消耗しないためだ。


 そして僕たちは魔物に遭遇しながらも、森の最奥部まで進んだ。


「何だ、あれ……」


 部隊が足を止め、一番後ろにいる僕たちでさえ、どす黒いモヤが渦を巻いて木の高さまで上がっているのが見えた。


「あの光っているのは何?」


 僕とリナはアイルのいる所まで前に進み、渦の中の光を指した。


「宰相が送り込んだ聖女たちだと思う。彼女たちが取り込まれてから、魔物は止まらないが、渦が広がるのは止まっているらしい」

「あの中で生きてるかもしれないってことだよね」


 渦巻く瘴気の中に、点々と光る五つの光。彼女たちによって瘴気は抑えられているのだ。


「彼女たちも助けたい……!」


 リナが強い眼差しを瘴気に向けていたので、僕もリナに頷いて、そっと肩を寄せた。


「じゃあ、俺たちが瘴気まで送ってやるから、お前らは振り返らずに行くんだぞ!」


 アイルの合図で、第一・第二部隊の隊員たちが瘴気から湧く魔物をなぎ倒して行く。その後ろを僕たちはついて行く。


 魔物を倒した後には聖女が三人のうちの一人が留まり、浄化。それを繰り返していく。


 そうして皆によって作られた道を僕たちはひたすら真っ直ぐに進んだ。


 瘴気の近くまで来ると、何とも言えない気味悪さを感じる。


 リナはすかさず浄化を始める。僕はリナと自分の間に、風で防護壁を作り、彼女を守った。


 周りでは皆が魔物と激しく戦闘をしているのが見えたが、僕はリナを守ることに集中する。


「……やっぱり、中から浄化する方が良いみたい」


 額に汗を滲ませてリナがこちらを見た。


「やっぱりそうか…」


 五人の聖女が中に取り込まれたことにより、瘴気の拡大は止まった。だから、内から浄化する方法が有効なんじゃないかという仮説はあった。


「レイン、一緒に行ってくれる?」

「当たり前だろ」


 リナが浄化の手を止めると、瘴気は僕たちを飲み込もうと、不気味に迫って来た。


 僕は防護壁の範囲をギリギリ二人分まで薄く保ち、瘴気の中に取り込まれて行くのを待った。


 リナの手を握ると、少し震えていたけど、僕を見て「大丈夫」と言った。


「お前ら、必ず帰って来いよ!!!!」


 瘴気の中に完全に入り込む瞬間、アイルの叫ぶ声が聞こえた。


 

 僕たちは真っ暗な瘴気の中に飲み込まれると、渦巻く流れに乗るように、上へと上昇していく。


「これ、レインの防護壁が無ければ瘴気に同化してしまっていたね」


 リナは僕に捕まりながら辺りを見渡した。


「取り込まれた聖女は浄化の力で何とか飲み込まれずにいるんだわ」


 リナの説明を聞きながら、僕たちは先に五つの光を目指した。上に上昇する途中でその光はあり、取り込まれた聖女たちがいた。


「生きてる、良かった……!」


 彼女たちの意識は無いものの、浄化の力のおかげで瘴気に完全に取り込まれてはいなかった。


 僕は彼女たちを転移魔法で、後方部隊に送った。


「これで安心だね」


 ホッとした顔で僕を見たリナに、微笑んで返す。


「そうだね」


 ……一気に五人送ったので、少しクラリとする。しかし、ここからが勝負だ。休んでなんていられない。


 上まで上昇して聖女たちを回収した僕たちは、転移魔法で瘴気の中心に移動した。


「じゃあ、始めるね」


 中心に来ると、リナがすぐさま浄化の力を発動させた。


 リナの浄化の力がキラキラと光って周りを浄化していく。


 しかし、範囲が広すぎて、さすがのリナも難しい顔をしていた。


「リナ、あれ、やるよ?」

「こういう時に限って断るのね」


 リナは僕を見上げて、フッと笑った。


 僕たちの力の融合がリナの浄化にも有効なのは、この作戦前に実験済だ。


 ただ、この瘴気に有効なのかは賭けでもあるけど。


 僕はリナの祈る両手に手を重ね、次に唇を重ねた。そして、時魔法発動ーー


 すると、みるみるとリナの浄化の範囲が広がり始めた。


 成功だ!


 そう思っていると、急に瘴気がうねりを上げ始めた。


「何だ?!」


 思わずリナから身体を離し、辺りを見渡せば、リナの浄化に抗うように広がろうとしていた。


「五人の聖女の制御が無くなったから、拡大しようとしてる! レイン、早く!」


 リナは急いで説明をすると、僕を掴んで唇を重ねる。


 緊急事態じゃなければ嬉しい状況なのに。


 僕は急いで時魔法を発動する。


 リナの浄化と融合して、僕の時魔法はどうやら瘴気の広がりを押さえているようだった。


 そして瘴気はみるみる小さくなっていく。

 横に広がっていた瘴気は、地面に向かって、底なし沼のように縦に伸びていた。


 しかし、最後の抵抗のように瘴気から魔物が生まれ、僕たちに襲いかかって来たので、僕は魔法で薙ぎ払う。


 完全浄化目前で、不気味な黒いモヤが突然、リナと僕を取り込もうと襲って来た。


 僕の風魔法じゃ、もう防ぎきれない!!


 僕は覚悟を決める。


「リナ、もう融合しなくてもリナの浄化の力で大丈夫だよね」

「レイン……?」


 僕の言葉にリナは怪訝な顔を見せる。


「絶対に浄化を止めないでね」


 そう言うと、僕はリナから身体を離した。


「レイン……!!」


 リナの叫び声と共に、襲いかかって来た瘴気が僕たちを覆う。


 でも大丈夫。


 リナの方を見れば、僕が渡した婚約指輪の魔法が発動して、リナを守っていた。


 リナ、勝手してごめんーーー


 浄化を続けながらも泣いているリナが見えた。


 最後に見るのが泣き顔なんて嫌だな……僕、最後まで最低じゃん。


 そう思いながらも、力尽きた僕は、真っ逆さまに瘴気の中へと落ちて行った。

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