第31話 まるで聖女のような
「!!!!」
僕は、またあの夢で目が覚めた。いつの間にか寝ていたようだ。
左手に温もりを感じて、顔だけをそちらに向ける。
「うなされてましたよ?」
心配そうにリナが僕を覗いていた。
「何で……」
先程、怒ってこの部屋を出ていったはずのリナが側にいて、僕は驚いた。
「癒しの力が嫌なら、栄養になる物をと思って」
そう言ってリナは隣のキャビネットに置いてあったドリンクを手に取った。
「飲めます?」
僕は言われるがまま、身体を起こし、そのドリンクを受け取った。
「苦っ………」
ドリンクを飲めば、何とも言えない味がした。よく見れば、色も緑でドロドロしている。
「疲労回復の野菜ジュースです」
リナがくすくすと笑って言った。
その笑顔に少しホッとするも、僕はいよいよ捨てられるのかな、という覚悟をした。
「リナ、さっきはごめん……怒ってるよね?」
ポツリと僕がそう言えば、彼女ははっきりと答えた。
「はい。怒ってます。許せません」
ああ……。僕は再び絶望感に苛まれた。でも。
「私、自分に怒ってます」
「へ?」
予期せぬリナの言葉に、僕はリナを見た。
「レインの体調の変化に気付けず、守ってもらうばかりで。そんな自分が許せません」
リナは自分を責めていた。僕は自分のことばかり考えていたというのに。
野菜ジュースをキャビネットに置くと、僕はリナの身体を抱き寄せた。
「リナ……!さっきは酷いこと言ってごめん!!」
「私、傷付きましたよ?」
僕の耳に近い彼女の唇からは、先程とは違う、優しい声が発せられた。
僕はリナを強く抱きしめた。
「リナ……リナ……!!本当にごめん……!」
「ふふ、レインが本当はそんなこと思ってないことくらいわかってますよ」
彼女の身体を少し離し、彼女の顔を見れば、彼女の顔は穏やかで。
「レインが私のこと凄く好きなのは知ってるんですから」
そして、僕に触れるだけのキスをした。
リナからのキスは初めてで。
突然の嬉しい出来事に、僕はフリーズした。
「私だってレインのこと大好きなのに、マリウスと比べるなんて……私の片思い歴、舐めてます?」
いたずらっぽく笑う彼女に、僕は敵わない、と思った。
「本当にごめん。でも、僕の方が好きだーー」
言い終わらない内に、僕はリナを抱き寄せキスをした。
唇を離しても、おでこが付く至近距離で、リナも張り合うように言う。
「私の方がずっとずっと好きなんですから」
お互い譲らない気持ちに、僕たちは笑い合った。
「マリウスとは戦友で、大事な仲間です。向こうもそう思ってます。だから、我慢して?」
リナはマリウスの気持ちに気付いていないようで。マリウスに同情しつつも、僕はリナに従うしかない。
「はい」
素直に答えれば、リナは「よろしい」と言って笑った。
年下なのに、彼女は懐が深くて。本当に女神みたいだ。
「リナ、本当にさっきはごめん……。僕以外と婚約なんてしないで」
僕は何度も謝った。
「レインが思ってないことを口走ってしまうのは、もうわかってますから」
そう言われて僕は情けなくなってしまった。本当に男としてダメだなあ。前回のことから、リナはこんなにも僕を理解してくれているのに。
そんな僕の気持ちを悟ってか、
「そんなダメな所も可愛いですよ」
リナはそう言って笑った。こんなダメな僕を受け入れてくれる彼女を心から愛おしいと思う。
「ありがとう」
僕がそう言えば、リナはいたずらっぽく言った。
「でも、次は無いですからね? 私の気持ちを信じでください」
「はい」
僕も素直に答えた。リナのことは信じていたのに、好きすぎて僕は周りが見えなさすぎていた。嫉妬に捕らわれてばかりの僕。
今度こそ、僕は変われるよ。
彼女の優しい微笑みが僕の心を溶かしていく。
彼女の愛で自信をもらった。僕は、もう大丈夫だ。
「リナ、愛している」
真っ直ぐに伝えれば、リナは嬉しそうに微笑んだ。そんなリナが綺麗で。キラキラして見えた。
「まるで聖女だ」
「私、聖女なんですけど?」
思わず口にすれば、リナは頬を膨らませた。
そんなやり取りに、また二人で笑い合った。
「じゃあしばらくは第一部隊、出入り禁止です!」
「えっ??」
リナが僕にビシッと言うので、ハテナマークが飛んだ。
「レインは魔術師団の仕事だけこなして、睡眠をきちんと取ること。アイル様に言って、師団長にも話を通してもらいましたから」
僕が寝ている間にいつの間に。
「いやいや、じゃあリナを守るのが……」
「マリウスに守ってもらえば良いって、レインが言ったんですよ?」
うぐ。確かに言ったけど。
「本心じゃないってリナもわかってくれてただろ?」
リナに思わず食い下がれば、リナは得意げな顔で僕に言った。
「私を信じる、とも言いましたよね?」
うぐ。それを言われると。
「大丈夫です。マリウスだけじゃなくて、第一部隊のみんなも守ってくれますから!」
うーーん、と僕は複雑な気持ちながらも、了承した。
リナを信じるのとリナは僕が守りたい、という気持ちは別物だ。
「僕がリナを守りたかった」
「守ってくれてますよ」
僕が少しいじけたように言うと、すかさずリナが言った。
「レインはいつだって私を守ってくれています。ありがとう」
そう言われれば、それ以上は何も言えなくて。僕はやっぱり彼女に敵わない。でもそれがとても心地良い。
「ここには帰ってくるので」
「半同棲は継続??」
リナの言葉に、思わずぱっと笑顔で見れば。
「私は別室を用意してもらえることになったので、レインはここで寝てくださいね」
「え、じゃあ帰って来るというのは……」
あからさまにがっかりした顔をすれば、リナは「可愛い」と笑っていた。
男に可愛いは嬉しくないぞ、と思っていると、「愛しいって意味ですよ」とリナが察して言ってくれたので、僕は満足する。
「レイン、ほっとくと食事が疎かになるから。食事を一緒にとるのは継続ですよ?」
リナは注意するように僕に言った。
「よろしくお願いします」
何とも情けなくて申し訳ない理由だけど、リナにこれからも毎日会えるので、僕はそれだけで嬉しくなって、返事をした。
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