第11話 僕よりも彼の方が

 第一部隊による討伐が開始した。


 今回は群れを成すスライムの討伐。

 最近、魔物が増えているせいもあって、王都近くの森でもスライムが大量発生している。


 今日は討伐も兼ねての教育でもある。騎士全員を連れてくるわけにはいかないので、僕の登場である。


 実践も大事だけど、上級者の戦い方や連携を見るのも勉強になる。


 僕は離れた所に位置し、それを記録する。


 記録するのに集中するため、第一部隊の騎士が一応護衛についてくれている。


 アイルは離れた所で部隊の動きを見ていた。


 流石、第一部隊。上手く連携が取れている。


 隊長の彼の指示も的確で、効率よくスライムを撃退し、彼女は危険なく浄化に専念出来ていた。


 彼が常に彼女を守るようにして側にいるのが気に食わないけど。


 僕はつい、彼女に目がいってしまっていた。


 心配する僕を他所に彼女はしっかりと聖女の仕事を全うしている。


 魔術師として現場にいた時は魔物を倒すのに必死だったし、副師団長になってからは現場に来ることもあまり無い。


 聖女の力をちゃんと見るのは初めてだった。


 浄化すると光が舞い上がり、彼女を取り巻く空気もキラキラと光って綺麗だった。


 『聖女』という言葉がまさしく彼女のためにあるようなーーーー


 「リナ、危ない!!」


 隊長の叫ぶ声に僕もハッとし、リナの上からスライムが降ってくるのが見えた。


 リナーーーー


 僕が飛び出そうとした瞬間、護衛の騎士に遮られ、それと同時に、隊長の彼が彼女を庇った。


「マリウス!!」


 彼女は彼の名前を呼び、彼も大丈夫だと言いながら、スライムに攻撃をする。

 周りの騎士も加勢に加わり、一帯のスライムは一掃された。


 見事な連携と言うべきだろう。


 いや、それよりも。


 僕は彼女が彼を名前で、しかも呼び捨てで呼んだことに驚いていた。


 彼女の癒しの力で隊長は傷を癒やしていた。


 ああ、そうか。僕があの日、二日酔いなのに頭が冴えていたのは彼女の力のおかげか。


 何故か唐突にあの日のことをぼんやりと思いながら、僕は討伐終わりの二人を見ていた。


「流石、隊長と聖女様!息ぴったりですね」


 興奮気味に僕の護衛をしていた騎士が僕に話して来たので、僕は虚ろに答える。


「そうだね」


 そんな僕にはお構いなしに、彼は興奮した様子で続けた。


「あんなにお似合いなんだから、二人くっついちゃえば良いのに〜! みんな言っているんですよ。何でくっつかないんですかね? もどかしいなあ」


 それは彼女が僕の婚約者だからだよ、と心の中で呟いた。


 でも第一部隊では二人はそんな風に思われているのか。


 二人が結婚したら祝福されるんだろうな……


 そう考えたら悲しくなってきた。


 もし彼女に婚約を撤回したいと言われたら、僕はどうするだろう?


 そんなことをグルグルと考えていると、アイルがやって来た。


「レイン、お疲れ様! なあ、この後ーー」

「ごめん。疲れたから僕は帰る」


 アイルが言いかけた言葉を遮って、僕はアイルにアイテムを手渡した。


「おい?」

「それ、そこのスイッチを押すと、映像が起動するから」


 そう説明だけして、僕は転移魔法を使った。


 

 

 転移魔法で僕は自分の研究室にやって来た。


「仕事を片付けなきゃ……」


 僕は山積みの書類の前に座った。

 今日の出来事が頭から離れない。


「もう、急いで片付ける必要も無いのか」


 そう言って僕は机にうつ伏せた。


 彼、強かったなあ。


 僕に敵対心バリバリだったなあ。


 彼女と何だか甘い雰囲気だったなあ。


 彼、庶民出身の僕と違って、貴族だもんなあ。


 嘘つきな僕よりも真っ直ぐな彼の方が良い奴だよなあ。


 彼よりも僕は劣っている。そんな劣等感でいっぱいなのと、何よりも最低なことしか言えなかった自分にひどく幻滅していた。


 傷付いたのは彼女なのに。僕が傷付くなんてお門違いだ。


 だから、僕は潔く身を引くことしか彼女にしてあげられることは無いのかもしれない。


 せっかく見つけた僕の光を手放す羽目になったのは自分のせいだ。

 そもそも、嘘から始まっていた僕らの関係は、まだ何も始まっていなかったのかもしれない。


「リナ……」


 そう呟けば、彼女に会いたくなって仕方なかった。

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