第二部拾玖 裕司の場合⑨

第1話 吉報を考えてしまう

 その知らせを聞いた時は……れいもだが、裕司ゆうじも大層驚いた。


 皐月さつきの容態が心配で、お互いなかなか眠れずにいた時に……まさかの吉報だったのだ。驚かないわけがない。



「ど、どどど、どうしよう!? ゆーくん!!」


「……どうしよう」



 驚いたが、嬉しい気持ちが爆発して。ふたり揃って正常な状態にはなれなかった。それでも、裕司の方が比較的早く落ち着いたので……まずは、水でも飲もうと浄水器から水を汲んで二人でコップ一杯飲むことにした。



「ぷは! おいし〜」


「だね。とりあえず……俺らに出来ることは、まず落ち着くことだ。風呂入ろう」


「ラジャ!」



 現在、夜の十時過ぎ。


 明日からはまた仕事なので、早めに休まなくてはいけない。怜は違うが、裕司は朝食バイキングの下ごしらえなどの勤務があるからだ。


 時短も兼ねて、二人で湯船に浸かると『生き返る〜』と口にしてしまうのは仕方がないと言うべきか。



「……妊娠か」


「ねぇ〜? びっくりしたよね!」


「……まあ。婚約してるならいい……よな?」



 同棲が裕司らより早かったふたりは、気がついたら婚約していたそうだ。


 皐月さつきが大学を卒業するまで……直接的なことを我慢していたのなら、智也ともやは随分と忍耐強かっただろう。そう思えば、この年頃まで妊娠発覚がなかったのは……いい方向かもしれない。



「かなあ? いや〜……さっちゃんがママかあ? しっかりしてるから、いいママになると思うよ!」


「だねぇ?」



 逆に、怜と裕司がもしそうなったとしたら。


 裕司は当然、無責任なことはせずに怜に結婚を申し込むし、育休が必要であれば申請するだろう。幸い、二人で勤務しているホテル内の会社は、福利厚生がしっかりしている。正社員の、産休から復職する体制も大丈夫だと……以前、葛木くずきに聞いたことがあるのだ。



「お祝い、考えなきゃだねぇ?」


「……そうだね」



 裕司と同世代……専門学校時代の同級生達の中では、結婚もだが、子供を授かった報告はほとんどない。職種が職種なので、自立出来るのは実家を出たりするだけで精一杯。


 出会いはあれど……大黒柱やそのパートナーになる覚悟がなかなか出来ない。


 裕司とて、まだまだ自信はないが……怜を考えると、そろそろいいかもしれないとは思っている。


 時間を見計らって、個人的に智也へLIMEのメッセージを送ろうと決めた。聞きたいことがあるからだ。


 風呂を上がってからスマホを見てみると、智也から通知があったので開いてみれば。



『明日の仕事終わりでいい。うちに来てくれないかな?』



 とあったので、だいたいの退勤時間を伝えれば……すぐに返事があったため、裕司は智也と約束することにした。


 怜にはなんとなく言えない感じなので、学校時代の同級生と飲み会が出来たと言う嘘で納得はしてもらえた。

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