第2話『色々ところてん料理』①

 一時間と少しで、裕司ゆうじの部屋へお邪魔させてもらうと……彼の部屋には大きな荷物が届いていた。


 差出人を見ると、見覚えのある名前が刻まれていたのだった。



「こもやんのおじいちゃん?」



 吾味ごみ啓司けいじ。裕司には母方の祖父で、去年の暮れ近くにれいは一度会ったことがある男性だ。生ところてんをたくさん食べさせてくれた恩がある。


 何が届いたのだろうか……と、伝票を確認してみると。



「夏だからってさ?」


「ところてん!」



 裕司が開けていくと、たしかにところてんが入っていた。冬に行った時に、ところてんの塊を突いて麺状にした道具まできちんと入っている。添書きには、冬ほどではないが美味いところてんを怜と一緒に食べろ、とあった。



「ふたりしかいないのに……送り過ぎぜよ」



 見事にところてん一色……かと思いきや、向こうの郷土土産などもきちんと入っていた。お菓子がほとんどで、クルミを使ったものが多い。



「お菓子は配れるけど……ところてんはねぇ?」


「なあ? サラダ……冷麺仕立てにするか?」


「ところてんで食事!」


「俺も試験内容考えるのに疲れたから……怜やんには突くの頼んだ」


「あいあいさー!」



 ところてんを麺状にする『突く』は然程難しくないので。とりあえず、食べられる分だけと……三つの塊を突いていく。


 麺状になったら、包丁を巧みに使って食材を切っていく裕司の顔を横で見ていく。真剣なその横顔が、怜はとても好きだった。



「……ん?」


「んーん?」



 こんな些細なやり取りが出来るだけでも、怜は今日が逆に暇過ぎて正解だと思えるくらい。大好きな人のそばにいられるのがこんなにも嬉しいとは。


 それだけ、怜もだが裕司もお互いを大事にしてくれるから。



「あ、怜やんにちょっとお願い」


「ほいほい?」


「赤ワインと蜂蜜を合わせて……煮詰めてほしい」


「……何に使うの?」


「突いていないところてん使って、午後のデザートとか」


「おお!」



 即興で思いついたようなので、言われた分量の赤ワインなどを小鍋で煮詰めている間……怜は塊のところてんを角切りにしていく。


 少しずつ、料理をする回数も増えてきたので、これくらいはなんとか出来る。友人の皐月さつきはまだ失敗が多いらしいが。


 赤ワインは沸騰したら、アルコールをよく飛ばすために少し煮詰め……出来た液は耐熱のタッパーに入れておいた角切りのところてんの中に入れていくだけでいいそうだ。酒を時々飲むようになったが、ワインはまだ回数が少ない。


 どんな味になるのか、楽しみだった。

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