第3話 ホテルでスイカ割り

 ホテルの休暇日当日。


 れいもだが、宴会スタッフ達はほとんど私服で参加することになった。



「え〜? どこ〜??」


「だいじょぶデス、マトーさん! 真っ直ぐ!!」


ワンちゃん、ここー?」


眞島まとうちゃん、ちょい右」


「むむ!」



 ただいま、怜がスイカ割りをしているところだった。裕司ゆうじは部屋の端で料理の仕込みをしているので応援にはいない。


 しかし、そこまで広くないパーティールームなので、おそらく見えているはず。屁っ放り腰になっていないか気になるが、ちゃんとスイカを割りたいので用意された麺棒よりも細い棒をしっかり持つ。



「マトーさん! そこ! そこデス!!」


「うりゃ!!」



 棒を振り下ろせば、苺鈴メイリンの言った通り固い感触が伝わってきた。だが、一度では無理だったので、何度か叩いてみると……ゴンとかグシャっと聴こえてきたため、怜は目隠しのアイマスクを取った。


 目の前には、いささか無残ではあるがきちんと割れたスイカがブルーシートの上に転がっていた。



「やった、デス!」


「おお! やったねぇ!!」


「んじゃまあ……料理長〜、俺持ってくねー?」



 テキパキと紫藤しどうもだが、葛木くずきらも職業柄進行を素早く進めたいので……さっさと台や皿を持って、裕司ゆうじ達がいる調理台に割れたスイカを持って行った。



(んふふ〜、こもやん提案のフルーツポンチ!)



 そちらについては、紫藤が割ったスイカを使っているので……今はバックヤードの業務用冷蔵庫に保管されている。


 ぬるいスイカよりも、出来るだけ冷たいものが食べたいと紫藤が豪語したからだ。葛木同様に、結婚して子供もいるそうだが……まだまだ若者に負けず、バイタリティーが高いようだ。追加のスイカも、ホテル近辺にある少しお高めの八百屋でわざわざ購入したらしい。



「見事に割ったねぇ?」


「ここ、スイカジュースにした方が」


「スムージーでもいいのでは?」


「即席シャーベットには甘さプラスしないと」



 裕司もだが、シェフ達もシェフ達でなんやかんや職業病が出てしまっている。今日は休息日でも普段からやっている仕事と、そこまで変わりないのだろう。


 怜は邪魔をしたくないので、中央に置かれているビュッフェを楽しむことにした。せっかくなので、苺鈴メイリンと一緒に。



「……コレが、食べ放題」


「あまりものだけでなく、出来立てなのだよ。ワンちゃん」


「乾いて、ナイデス。すごく……美味しソウ!!」


「余ったら、また捨てちゃうもんね? 食べよ食べよう!!」


「はい!!」



 パスタ、グリル、グラタンにオードブル多種。


 ほとんど、仕入れの関係で余った材料でシェフ達が作ったらしいが、さすがはシェフ達だ。


 料理はまだまだあるそうなので、怜は苺鈴と突撃する勢いで普段使い慣れている取り分け用のスプーンとフォークで皿に山ほど盛り付けていった。

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