第2話 提案の提案


「ほうほう、スイカ割り?」



 その日も、たまたま終業時間が一緒だったので一緒に帰るときに……れい裕司ゆうじに昼間の出来事を話した。まかないの時は、今日は休日だったのでホテル側のスタッフが多く……まかない処も大忙しだったのだ。


 今日の夕飯は、ホテルシェフも顔負けのお手製ハッシュドビーフにした。ご飯との相性が物凄く合った逸品だった。


 裕司の上司である山越やまこしは、もともとホテルではないが名の知れたレストランの副料理長であったが。まだまだ現役で働ける年齢だったのに、日々目まぐるしく働くのが疲れてきて……先代の料理長に誘われて、このホテルのまかない処に来た。


 客は決まっているけれど、その分気兼ねなく話合えるし、リクエストにも応えたいと思う気持ちから……先代から役職受け続けるまで、ずっと在籍していた。バイトの育成にも力を入れ……裕司が入社するまでは、単純なステップアップを向上させていたが、裕司が来てからはまかない処が華やいで来たと言われたらしい。


 裕司以外にもバイトはいるが、彼らも裕司の提案メニューにはいつも喜んでいるそうだ。



「そうそう! 紫藤しどうさんが買ってきて、コールドの冷蔵庫に入れてたのだよ」


「休暇日か……? 源さんも、仕込み以外は休むって言ってたぜよ? 俺達も参加すると思う」


「あの量だと、スタッフだけで美味しく食べちゃうだけだねぇ?」


「怜やん、少し物足りないのかい?」


「ははは。わかるかい、こもやん?」


「そりゃあ、彼氏殿なので」


「んふふ」



 口調遊びも楽しい。


 こんな子供みたいな遊びに付き合ってくれる裕司とは、友達だった時から本当に大好きだった。どちらが片想いについては先か聞いていないが……個人的には、怜が先だと思っている。


 仕事終わりなので、お互いの左手には怜の誕生日に贈ってもらった指輪がある。宝飾店より安価であるのは承知だが、大切なアクセサリーだ。今日は怜が裕司の右側なので、裕司の指輪が手に当たっている。


 裕司もだが、怜も仕事中は無くさないように財布に入れている。そして、帰宅する時には左手にはめているのが日課となった。


 さておき、怜はあのスイカの量では料理はともかく……食後のデザートには物足りないと感じていた。


 きっと、会社側の経費でなんとかしてくれるかもしれないが……賞味期限間近のアイスやシャーベットを出されても違う気がした。


 夏ならではのことがしたい……。


 この前、裕司と温水プールを楽しんできたこともあるが、海になかなか行けない怜としてはスイカ割り以上のことも楽しみたかった。



「ん〜〜? もう少し買い足してくれるんなら、フルーツポンチとか」


「フルーツポンチ? 缶詰フルーツが多いやつかい??」


「いや、シェフ達だとフルーツのコンポートがあるじゃん? こう言う時期だとゼリー寄せとかに使うって、怜やん言っていたじゃないか。ああいうのがあまりもので使えるなら」


「ふぉお!! それ美味しそう!!」


「ま、スイカ割りはスイカ割りで。残りを冷やしてフルーツポンチにするのもアリじゃね?」


「アリも大有りだとも!!」



 さすがは、裕司である。


 紫藤にメッセージを送ると、すぐに『買い足す!』と返事があった。

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