第3話『缶詰味覚狩り』①

 買い物をしてから、裕司ゆうじ達はまた裕司の部屋に戻ってきた。


 そして、準備したのは……。



「これはなんだね、こもやん」


「見ての通りぜよ、れいやん」



 天井には養生テープ。


 そこから吊るしているのはカラフルなビニール製のタフロープ。さらにその先には……多彩な缶詰達。


 ほとんどが、フルーツの缶詰だった。



「どう見ても、異質に見えるが」


「こんな感じだったのだよ」


「何が?」


「お菓子だったり、パンだったり。部屋の上から吊るして競争したりする動画」


「おお! こもやんの素敵ボディを作ったダンス動画とかで?」


「いや、違うチャンネル」


「なんだぁ」



 動画と言っても、ひと昔前を思うと星の数ほど存在している。裕司の見ていた、よさこいソーラン節以外の動画だって山ほどあるのだ。しかし、プール以来見せていないが怜にとって裕司の体が好みの部類だったようだ。


 いずれ迎えるその日まで、さらに鍛えようかと実家にあるデータから高校時代の動画を持ってこようと密かに決めた。



「まあ、とりあえず。生の果物もだけど、缶詰も入れて擬似的な味覚狩りをしようじゃないか?」


「いい提案でござる! しからば、ルール的なのはあるかね?」


「好きになんでも。缶詰はちょいと重いから先のがベスト」


「ならば、缶切りスタンバイ」


「開けるのは任せるぜよ」



 缶詰は缶詰でも、コンビニよりも少しお高めのスーパーで購入した、それなりに値段が高かった逸品だ。


 怜はハサミを持って、ゆっくりとタフロープを切ってから缶詰をしっかりとキャッチ。


 缶詰の購入は、裕司がぽんぽんとカゴに入れていたのであまり見ていなかったのか、手にした桃缶を不思議そうに見ていた。



「普通の桃缶より、お洒落なラベルだ」



 裕司に渡してきたそれは、真ん中に桃の絵。


 産地の名前以外は実にシンプルなラベルだった。一番最初に、怜が食べたいと思ったので裕司が選んだのだ。


 缶切りで気をつけて開けてから、普通の桃缶とは違って少し小さく切った身が入っているのをシロップごと用意した器に入れた。



「どうぞ」



 裕司も食べるが、これは怜にと用意したものなので、先に食べるように勧めた。


 では、ありがたく……と怜は手を合わせてからフォークを刺した。小さな口にパクッと消えていくと、怜は思いっきり腕を強く振った。



「何これなにこれ!!? めちゃくちゃ美味しい!!」


「ふふふ。ちょうどあって良かったが、それ岡山産の桃ぜよ」


「え!? 缶詰なのに、なんかジューシーで嫌な甘さじゃないよ!!?」


「一応贈答品扱いにもなるやつだしね?」



 裕司も実家で母とかが購入していなければ知らなかったものだが。他県で売っているかわからなかったが、売っていて良かったと思った。


 怜はぱくぱく食べながら、舌休め用のストレートティーも挟んで桃缶を堪能していた。



「おいひー。生の桃じゃないけど、おいひいよー!」



 そして、幸せそうに食べる怜の笑顔に……少々奮発して買った甲斐があって良かったとも思えた。

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