第2話 行けない味覚狩り
ホテルのパーティースタッフこと、宴会サービススタッフのバイトの一員。
友達付き合いもだが、出会ってそろそろ二年近く。夏前に怜の誕生日祝いにと少しお高めのペアリングを、ふたり揃って業務外では身につけている。
業務中で、裕司は包丁が。
怜の方は、台車かなにかで挟まっては。
指輪で怪我をしては一大事だ。
と、怜に贈った時に彼女が提案してくれたので、指にはめるタイミングを決めたのだ。
帰社時間もバラバラだが、たまに一緒になる時は共に左手に輝いているのを嬉しく思う。そんな些細な喜びも、裕司は怜から色々教わった。
だから、秋にもデートはデートでも屋外で色々連れて行ってやりたい。
秋だからこその、味覚狩りとやらにも連れて行ってあげたいのだが。
「……ことごとく、お互いの休みは雨か」
天気予報のアプリを見るたびに、裕司はガッカリしていた。
「お? 全部雨かい??」
今日も雨なため、外デートはやめて裕司の部屋で過ごしている。映画などは見終わったので、今はそれぞれフリータイム。怜は、スーパーで期限間近のセール品になっていたどら焼きを食べていた。
「今んとこ、全部。くぅ〜……味覚狩り連れてってあげたかったぜよ」
「味覚狩りねぇ? 春のイチゴ以外だと何があるんだい?」
「時期にはよるけど、みかんにりんご、ブルーベリー。あとメロンにぶどう……山梨行けば、さくらんぼとか?」
「……桃はないのかね?」
「桃? えーと」
聞いたことがないわけではないが、一応スマホで調べてみると……関西や甲信越に多く、時期はもう終わっていた。
それを伝えると、怜は分かりやすくローテーブルの上に突っ伏した。
「むむむ……採れたての桃食べたかったぁ」
「まあ、夏のイメージあるからなあ?」
「あのひんやりした手触り。ジューシーな果汁!! コンポートも嫌いじゃないけど、生の桃も食べたい!!」
「ふぅむ」
桃は傷むのが早いため、コンポートなどの缶詰に加工されるのが収穫後には多いとよく聞く。
生だからこその魅力があるのは、裕司にもよくわかる。しかし、付き合ってしばらく経つが、怜の好物に桃があるとは知らなかった。
「うちの実家……おばあちゃん家がさ?」
「ほいほい?」
突っ伏してから、唐突に顔を上げて話し出したので裕司は返事をしてやった。
「毎年……岡山の方の桃をお歳暮とかに贈ってくれたのだよ。あれがみずみずしくて、甘くてとっても美味しかった……」
「桃太郎伝説もとい、あっちは桃の名産地だからねぇ?」
「うう〜……もっと早くこもやんに言っておけば良かったぁ」
「俺も思いついたの最近だから、仕様がないぜよ」
「む〜……」
とは言え、ここまで桃好きとなると。
今思いついたことがあったので、さっそく実行しようと雨上がりの外へふたりで出かけることにした。
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