第4話『缶詰の味覚狩り』②

 それから、裕司ゆうじれいは多彩な缶詰や少しある生の果物を文字通り『収穫』していく。


 しかし、まだまだ若いふたりでも生はともかく、ほとんどシロップ漬けになった缶詰を一個一個口にしていくのは飽きてきた。


 なので、裕司が一緒に吊るしておいたポテトチップスなどのお菓子と一緒に、インスタントコーヒーで舌休めをすることにした。甘ったるい舌が、苦目のブラックコーヒーで落ち着いていくようだった。


 やはり、砂糖メインの味付けはケーキもだがどうしたって、甘ったるいのでずっとは食べられない。そのため、ホテルや飲食店などのケーキバイキングには軽食なども用意されている。


 ふたりがバイトしているビジネスホテルでも、立食スタイルのビュッフェではデザートビュッフェの場合は似た感じで出揃っているらしい。すべて、怜から聞いた情報だが。



「おいひいねー」


「食い過ぎたなあー?」



 しかし、結果的には怜も大満足してくれたので、裕司としても満足で心が満たされた。


 ヨシヨシと怜の髪を撫でてやれば、怜は気の緩んだ可愛い笑顔を向けてくれる。友達付き合いの時もだが、本当に懐に一度迎えた相手にはとことん素顔を見せてくれるのだ。それが可愛くて仕方がない。



「それに、こもやん」


「んー?」


「秋には他にも秋の味覚狩りがあるのでは?」


「あー、地方に行けばあるだろうけど」



 怜と遠出で約束しているのは、冬の長野への帰省くらいだ。市内であるこの辺では、果物もだが作物でそう言ったレジャーがあったか。


 怜の頭を撫でながら、裕司はスマホを操作してみる。


 すると、検索結果に結構出てきた。


 梨。


 ぶどう。


 みかん。


 柿。


 いちじく。


 キウイ。


 栗。


 さつまいも。


 果物ではないが、椎茸も。


 フルーツ関係は、春や夏がメインのイメージがあったので、裕司にも勉強になるなと感心してしまう。



「どんなのー?」



 怜にもスマホを見せてやれば、らんらんと言う具合に目を輝かせたのだった。




「結構あるんだな?」


「だよねだよね! 二日くらい休み申請すれば、行けそうかも!!」


「ふぅむ。ちょいと怪我の可能性があるけど……栗にしてみないかね? 俺、去年学校でマロングラッセ作ったからさ?」


「おお! もしかして……その栗で」


「ふふふ。言わずもがな、モンブランを作ったぜよ」


「お金折半するから! モンブラン作ってくだせえ!!」


「心得た! まあ、道具も新調しないとなあ? と言っても、絞り袋とか口金とか」


「東京のお店とかだと、生搾りとかやってるよねー?」


「あそこまでの味に出来るか自信ないけど、やるだけやるさ」


「さっすが、こもやん!!」



 食と遊びに関しては、お互い気が合う以上に合い過ぎる。


 こんな生活が、この先も続けられるように……裕司は、怜と栗拾いに行く日程を決めつつ、頭の中ではモンブランのレシピをイメージトレーニングしていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る