第七章 眞島の場合④

第1話 ふたりの栗拾い①

 秋もまだ初旬。


 しかしながら、大学二年生である眞島まとうれいはやる気に満ち溢れていたのだ。


 本日はバイトも学業も休み。


 大好きな一個年上の彼氏である小森こもり裕司ゆうじと、少し遠出に出ていたのだ。



「栗拾い〜、栗拾い〜!!」



 怜達の住む市外からかなり外れた、少し山の中。裕司の車で、怜は彼と約束していた栗拾いに来たのだった。怜は言うまでもなく、テンションが高く……まるで子供のようにはしゃぎながら、裕司の手を握っては振っている。



「焦る必要はないぜよ? 今日はたんまりと栗を持ち帰られるはずだから」


「そうかもしれぬが、こもやん。栗拾いなのだよ? あとでこもやんお手製のマロングラッセとモンブランを思うと楽しみなのだ!!」


「はは〜、恐悦至極」



 とかなんとか、口調遊びをしている間に受付に着いたので……料金を支払い、職員に渡された長靴とゴム手袋を装着する。


 栗拾いは文字通り、地面に落ちた栗を拾うので怪我の対策はしっかりしなくてはいけない。



「棘は地面に落ちたものこそとがっていますので、出来るだけ素手で触れないようにしてください」


「わかりました」


「栗ですが、拾ったものをお持ち帰りではなくこちらで冷蔵保存していた熟成した栗となります。理由は、ダメではないのですが栗は熟成した方がより甘く美味しくなるからなのです」


「ほー」


「どれくらいお値段が?」


「プランの料金のだけですと、おふたりで二キロはあります」


「わかりました」



 熟成とか、裕司が必要な量についてはさっぱりだが……美味しいモンブランを食べられるのなら、多少は妥協しなくてはいけないのだろう。自分達が拾ったものを持ち帰られないのは、少し残念だったが。


 しかし、せっかくの味覚狩りは楽しもうと、怜は渡されたトングを構えるようにして前に進む。


 少しずつ進むにつれ、遠かった栗の木が並んでいるところが見えてくる。早い時間だったが、先に来ていた客が思い思いに栗を拾っていた。



「こもやん、私達のフィールドはどこだね?」


「んー? Bの6だって」



 客同士で収穫すると、喧嘩はともかく譲り合いなどがあるため……栗拾いはフィールドごとに分けられているらしい。いちご狩りでも時々あるそうなので、怜は説明を聞いた時に勉強になるなと思った。


 フィールドに歩いていくと、あまり客がいないのか怜と裕司以外……客は少し遠いフィールドの方にしかいなかった。



「よっしゃ! 拾うぞ!!」


「対策はしてても、転んで顔に棘ぶつけたら悲惨ぜよ」


「う、はーい」



 そうすると、栗拾い中断と言われるかもしれないのではしゃぐのを我慢したのだった。

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