第4話『伸びるチーズハットグ』②

 先入観は捨てた方がいいとは言え、少しばかり難しい気がしてきた。



(……たしか、アメリカンドックにハチミツをかけるって聞いたことがあるような……ないような)



 しかしながら、チーズにハチミツをかけるピザがあることも知っているけれど。れいとしては、美味しく食べたいのでケチャップとマスタードにすることにした。



「こもやん、出来た……って!?」



 裕司ゆうじを見ると、全部のフレーバーをそれぞれ位置を決めてかけていたのだ。怜の声に反応すると、にんまりと笑顔になった。



「こう言う機会じゃないと、全部は出来んぜよ?」


「いや……そうだけど、全部??」


チョウ君の提案を信じて。んじゃ、邪魔になるだろうから向こう行こ」


「う、うん。張くんまたね!」


「はーい」



 裕司に手を握られたので、ゆっくりと人並みに戻り……また食べるのに適した場所へとついていく。


 出来立てのチーズハットグを落とさないように、かつ他の観光客の服につけないように気をつけて移動する。


 たこ焼きを食べたところとは違う場所に到着したら……ふたりはもう一度、それぞれのチーズハットグに目を向けた。



「……見た目は、ポテトクランチがついたアメリカンドックだねぇ」


「だねえ?」



 しかし、今更ではあるが……本当に裕司は自分で作ったフレーバーを全部食べ切るのだろうか。基本的に好き嫌いがないのは知っているが、初めての経験にここまで物怖じしないのは怜も初めて見る。


 ケチャップ、マスタードはともかく粉砂糖にハチミツはいかがなものか。絶対合わないと思うが、裕司が勢いよくがぶりついた。



「おー!」



 張が居た屋台のメニュー通りに、モッツァレラチーズが食べた箇所から勢いよく伸びた。中には大ぶりだがフランクフルトよりは細身のウィンナー。


 生地はふかふかそうで、実に美味しそうだ。遅れじ……と、怜も自分のチーズハットグにかぶりつく。



「はは、めっちゃ伸びてる」


「うほー!」



 モッツァレラチーズのせいか、伸びても伸びてもなかなか切れない。納豆の糸引きよりも厄介だろう。もきゅもきゅとなんとか噛み切ってから、口の中に入れてよく味わう。


 生地は少し甘い。アメリカンドックよりは甘さ控えめだ。表面のクランチにしてあるポテトの相性とケチャップにマスタードは相性がよくて当然。適度な辛味に酸味。そしてほんの少しの甘味が悪いはずがない。


 とは言え、やはり怜個人の先入観があって、裕司の粉砂糖とハチミツの部分は美味しいのか気になった。食べ進めながら見ていると、裕司はにっと笑った。



「怜やん。ホットケーキ好きでしょ?」


「? うん、作れるようにもなったし、好きだけど」


「たまに塩っぱい味付けで、パンケーキメニューでもあるじゃないか」


「……そんな感じ??」


「そんな感じ」



 ほい、とまだ残っている粉砂糖とハチミツの部分を差し出してくれると……怜は少しためらったが、勢いも大事……とかぶりついた。


 口に入れた途端、ハチミツの甘味が強く押し寄せてきたが。



「……あれ。美味しい」



 食べた箇所の関係で、ケチャップもマスタードもあったが……想像していた以上に悪い組み合わせではなかった。先に、裕司が食事向けなどの話をしてくれたお陰か……先入観が薄まったせいもあるだろう。



「レシピ、生地はちょっと特殊だけど……そこまで難しくはないし。俺も作ってみようかなあ?」


「こもやんのチーズハットグ!?」


「味見役は頼むぜよ?」


「もちのろん!!」



 咲き誇る桜の花達よりも、やはり花より団子な怜ではあるが。


 少しでも、彼氏と一緒にいられる時間を思うとこれでいいのだと思ってしまうのだった。

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